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3.ぬるぬる

side マテウス


「何だよ・・・これ・・・。」


 眼前の光景は、今が非常時であることを示すには十分なものだった。


「・・・気持ちわりぃ。」


 俺の発言、不謹慎とかは言わない方向で。だってとりあえず抱くのはやっぱり、それだと思うんだ。

 床中にぶちまけられたぬるぬるがぶよぶよと蠢いて形を成している光景は、絵的に受け付けられないっていうか・・・ねぇ?


「・・・スライム・・・だよなぁ、これ・・・。」


 幸いにも剣術学校に通っていた俺は、そこらの一般人よりはモンスターの知識がある。けど、こんなのは別に知識なんて要らないと思う。ぶよぶよとした液体モンスターなんて、スライム以外の何者でもない。

 だが、このスライムって生き物は意外と物騒なのだ。スライムは変異種でもない限り大体強酸性。人間はもちろん、大体の武器や防具も侵蝕してしまう。下手に傷つけても何度でも再生するし、性質の悪さならそこらの凶悪モンスターにも負けない。


「こ、この刀、溶けねえよなぁ・・・?」


 うん、この心配、当然だよね?

 スライムの対処法は大きく分けて3つ。液体部分を無力化するか、術法で存在そのものにダメージを与えるか、核を物理的に壊すかだ。

 うち術法は論外。術法が使える奴ならスライムの生命力?というか精神力?というか、とにかくそんなものを削り取ることで活動不能に出来る。のだが俺、そんな心得カケラもないんだよね。

 液体部分を無力化、ってのは例えば火とかで蒸発させたり、アルカリ持ってきて中和したりする方法。これは術法じゃなくても構わない。液体部分が使えないスライムはモンスターとして無力、ってことなんだけど、これも除外。火なんか屋内で使えないし、アルカリなんて俺の頭じゃ思いつかない。

 となると残るは破壊なんだけど、(こいつ)が溶けるようだと困る。戦う手段としてもそうなんだけど、これ、宝箱に入ってたってことは、きっと高い物だってことだと思う。


―つんつん


 恐る恐る突っついてみる。結果は・・・大丈夫っぽい。この刀、何で出来てるんだろね?

 まあそれはさておき、武器が大丈夫ってのはありがたい。このスライムを無視して兄貴たちの元へ向かうのは良策とは思えない。挟み撃ちの危険性もあるし、何より通してくれそうに無い。


 ひょっとしてつついたの、痛かった?


 だって、このスライムたちの殺気、明らかに俺に向いてるよね?そもそもスライムってそんなに知能高くない。目的があったとしても怒ったらそっち優先になるのは動物といっしょだ。


「冗談じゃねぇぞ・・・!」


 一斉に向かってきそうなスライム達を前に、俺は刀の握りを改めた。


side マテウス out




side ???


 この町に来たのは、初めてではないがそう多くもない。

 だが、この町は実にいい空気を持っているので好きだった。人々の活気ももちろんなのだが、なんといっても空気の清浄さが他所とはまるで違う。

 当然といえば当然だ。この町は広大な森林地帯の中にぽっかりと開くように存在している。町と呼べる規模なのは街道の整備が整っている影響だろう。「氷の港」と呼ばれる交易の拠点ハイネル港と「教会」のお膝元「宗教都市」セノワストの中間地点という立地は、人が集まるには十分すぎる理由だ。

 「深緑の町」リネル。ここが私の今回の任務先だ。


「きゃーーーーっ!」


 悲鳴!

 私は駆け出した。任務とは多少違うが、悲鳴を見過ごせるほど無関心ではない。それに・・・


「せぁっ!!」


 腰の剣を抜き、女性に襲い掛かっているスライムの核を斬りつける。スライムはその体を保てずに崩れ、地面に染み込むと跡形もなくなった。


「お怪我はありませんか、お嬢さん?」

「は、はい、あの・・・ありがとうございます・・・。」

「気にすることはないよ。市民を守るのは騎士の務めだ。」


そう言いながら私は、近くにいた青年を呼び止める。


「君、済まないが彼女を安全な所に。私は行かなければならない所があるのでね。」

「え、ええ、わかりました・・・。」


 青年の言葉がしどろもどろになっているのは、騎士と話すので恐れているのかもしれない。親しみの持てる騎士、例えば部下のヨハンならばこうはならないだろう、要修練だな。

 それに先ほどの女性もやっと恐怖と緊張が解けたのか、先ほどより血色がいい。一気に緊張が解けたのだろう、林檎のように真っ赤になっている。動揺させてしまったか・・・修行が足りないな。


「しかし街中でスライムとは異常だな、リードルス伯はご無事だろうか・・・。」


 伯の屋敷にはアレ(・・)がある。モンスターの本能から鑑みるに屋敷はきっと修羅場だろう。

 私は腰の鞘に剣をしっかりと収め、屋敷へ向かう歩を速めた。

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