2.すげー剣ゲット!・・・?
side 反省してない男
「・・・剣・・・?いや、刀か?」
うん、刀。
しかも結構禍々しい感じの拵えがついてるやつ。鞘の形からも、サーベル系の曲刀だってことが判る。
俺は当然その剣を抜いた。そりゃね、俺も剣士な訳ですよ。目の前に剣がポンとあって、見定めたくなるのって当然だと思うわけですよ。
でも・・・わからん。
「真っ黒・・・つやも光沢もなし、黒刀、って奴か。珍しいな。」
黒刀っていうものは、一般の刀より目利きがそもそも難しい。まず金属が何なのか、次にその金属の特性、そしてその錬性、そして切れ味に美術的価値と、見極める項目が多い。
だってのに、流通量自体がそもそも皆無。世界中のどこに行っても黒刀なんてものは売ってないのだ。「教会」の指定で取引が禁じられてるから、っていうんだがその理由、俺知らないんだよねぇ。
まあそんなわけで、黒刀ってのは目にする機会がない。俺自身、図鑑や上流階級が趣味で開いてる「秘宝館」っていう博物館(親父が招かれて連れてかれた)くらいでしか見たことない。こういったものは許可もらってるらしいけど、詳しい話は知らん。兄貴と違って俺カミサマ興味ないし。
まあ、見てもわかんない品だってことは理解いただけたと思う。
「てっ!はっ!てりゃ!」
わかんないんだから、とりあえず振ってみる。うん、いい刀だ。
いい刀の定義って人によると思うけど、俺はなんといっても扱いやすさと剛性だと思う。盾の無い片手剣の流派を修めた俺としては、振り軽いことと受けても折れないことが求められる。切れ味は・・・その次くらいかね。
そしてこれは、俺が触れたことのある中でも最高の刀だった。重心が絶妙なのと、残心時の手応えで剛性も伝わってくる。そして風切り音から察するに、切れ味も相当のものだ。
「・・・いいな、これ♪」
やばい。
テンション上がる。
「うぎゃーーーーーーー!!!!」
何、今の?
兄貴の声だった。
悲鳴・・・だったよな。
「っち、何があった!?」
あの兄貴は、大概冷静だ。俺がおちょくってもうろたえる程度で、決して醜態は見せない。兄貴の叫び声なんか、産まれてこのかた聞いたことが無かった。
それだけで、非常事態が見て取れる。
「くそ、何とかここから出ねえと・・・。」
出たところで何が出来る、とも思うだろうが、兄貴はケンカはからきし、親父もいい歳だ。万が一荒事のたぐいなら、そう長く戦えるわけが無い。お袋は・・・言うまでも無い。
「・・・こんのやろぉぁ!!!」
俺は扉を全力でぶん殴った。頑丈な扉である。殴ったところでどうしようもないのは目に見えてるが、何もしないわけにはいかなかった。
そして結果は、真っ二つ。
真っ二つ?なんで?
俺は恐る恐る右手を見た。
「・・・どーいう切れ味してんだ、この刀。」
うん、刀、握りっぱなしだったよ。
ってか非常識な刀だよね。握ったまま殴っただけで、俺別に振ってもいないよ?ちょっとしたブレで扉に当たった刀身が、木製とはいえ倉庫の扉クラスの頑丈な戸板真っ二つだよ?
「・・・ってそれどこじゃねえ、兄貴!」
俺はこの刀の鞘を急いで腰に差し、倉庫を飛び出した。