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14.授業その1「心得」

side やっと本調子に戻ってきた教え子




「ところでゼシカ殿、わしはまだ何故お前さんらが入牢したのかを聞いておらんのだが。」

「あ、そうですね。この際なので全部すり合わせてしまいましょう。」


 そう言って私はこれまでの経緯を話し始めた。


 けど、長いので、略。


「・・・というわけなんです。」

「ふむ、なるほどの。」


 ローラント先生は実に聴き上手だった。まるで先を知ってるんじゃないかと疑いたくなるほど、話の先を誘導するのが上手い。ものの数分程度で、これまでに起こったことの説明を済ませられた。


「まず、ゼシカ殿には言っておかねばならんな。」

「!」


「問う。お前さんの信ずるものはなんだ?」

「はっ!神の言葉であります!」

「神の言葉とは、ねじ曲がった者たちに解し得るものか?」

「いえ、まっすぐに問い続けるものと教わりました!」


 これは・・・教の問答・・・教官が教え子の心得違いを正す授業だ。私もローラント先生には何度も相手をさせられたことがある馴染みのものだ。

 しかし、今、何故?


「問う。「教会」とはなんぞ?」

「神の言葉を伝える使いの組織であります!」




「否!」





 え?




「「教会」とは、神の言葉を解さんとする者の集まりに過ぎぬ!神の言葉を解してなどおらん!」

「な、なんですって?」


 どういうことだろうか?頭が真白くそまり、思考が分散してゆく。ダメだ、その意図がわからない。

 だが、ややあって先生は教えてくれた。


「神の言葉は神のもとにのみあるものじゃ。「教会」が神の代弁者を騙るなど、不遜にも程があるわい。良いかゼシカ殿、「教会」のたかだか評議員ごときに己を否定されたとて、神による否定と同義ではない。」




「己の正義を知れ。己が心揺るがす者は、己と己の神の他に求めるな。」




 ・・・ああ、かなわない。


 私の悩みを、この方はいとも簡単に見破った。先程までの私は、己に向けられた悪意を「教会」の、いや、神が己に向けた敵意だなどと勘違いしていた。そして、勝手に絶望していたんだ。


 先生、早速ですが守れそうにありませんよ・・・


 今、あなたは私の心を揺るがしたんですから・・・






「さすがだね、おっさん。先生ってのはダテじゃねえか。」

「ほう、お前さんその様子だとゼシカ殿の迷いに気づいておったようじゃな。」


 え、バレてたの?


「まあね、でも俺にはそれを溶かしてやることなんてできねえさ。さっきまで若干盲信入ってたみたいだし。」

「ふむ、大した眼力よ。お前さん、ゼシカ殿より見所あるやもしれんぞ?」


 ふ、二人して、ひどい。

 というか私は、そんなにもわかりやすかったのだろうか?


「お前さん、騎士を目指してみんか?」

「おう、もともと憧れてたんだ。剣の心得ならそこそこあるぜ?」

「ふむ、ではお前さん、神を信じておるか?」

「いや、特には。」


 ずるうぅっっ!

 ちょっと待てマテウス!君はアホか!教会の教官に信心がないって言うって、喧嘩を売ってるようなものじゃないか!


「・・・バカ正直なやつじゃの。「教会」の騎士団に入る話じゃぞ?」

「あ、それもそうか。」


 それもそうか、じゃないだろう!ただでさえ「教会」の評議会に(冤罪とはいえ)牢に放り込まれるなんて事態を起こしてるんだぞ!ましてやあれだけ暴れたんだし、言ってみれば最後の望みじゃないか!




 だが、私の心配をよそに、先生は笑い出した。高らかに、大いに声を張り上げて。


「わっはっは、そうかお主、バカ正直と思ったがちがうな、馬鹿じゃ、大馬鹿じゃ!ひーっ、ひーっ腹筋が痛いわい!」

「・・・いや、バカは自認してっけど、そこまで笑われると腹立つな。」


 いや、違うよマテウス。先生の言いたいことはなんとなくだがわかる。君はバカなのではなく、馬鹿なのだ。

 バカはどうしようもないが、馬鹿なのは立派な才能だ。大馬鹿ならばなおさらだ。常人が難しいと諦める事態を、「難しさを知らないから簡単にやり遂げてしまう」、そんな大器の種だ。




 以前感じたマテウスへの「未知数」。その答えが垣間見えた気がした。


 多分、ほんの少しだけ。

宗教がどんな神を奉じていても、それを取り仕切るのは人間です。

筆者はクリスチャンではありませんが、ルター以前のカトリック教会の話を学生時代の歴史の授業で習った時、こんな腹立たしさに似た違和感を感じました。

そういうお話。

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