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9.暇潰しのおせっかい

今回の話はゲーム構想時代にサブイベントとして考えていた幕間のような話になります。

ただし本編と全くの無関係というわけでもないのであしからず。


では、本編をどうぞ。

side 1日ヒマになった男


「観光っつってもなぁ、何見たらいいのかわかんねえよ。」


 正直俺の心境はこの一言に尽きる。

 昨日はあのあと鍛冶屋に行った。で、

「時間かかりそうだなぁ、明後日まで預からせてくれる?」

などとあっさり鍛冶屋に言われてしまったもんで、正直あまりいい物じゃない代刀を腰に差している。まあ、客に預ける代刀なんてこんなもんだろ。

 で、その後は宿に向かってバタンキュー。何しろ5日の間野宿ですらろくな睡眠はとってない。交代で見張りながらだからあまり長時間寝入ることが出来ないのだ。これって結構な負担だったもんで、俺はもとより旅慣れているはずのゼシカでさえメシも食わずにベッドにダイブだ。

 翌朝起きてからは、ゼシカは報告書の作成とかいって宿に一日カンヅメらしい。俺は最後にチェックを手伝えばいいらしい(ってか手伝いなんて俺がしても邪魔)ってことで宿を出てみたんだが、ここで問題が発生する。

 どこに行ったらいいのか、全くイメージが湧かないのだ。

 そもそも俺は宗教建築とか興味ないし、宗教都市(セノワスト)は他の大都市と比べても娯楽の類が少ない。だって宗教都市だから。まあしかたないよな、うん。

 食事は美味いところもあるが、往々にして値段が高い。盗賊退治の報奨金とかで財布の中身は多少暖かいけどそんな無駄遣いは俺の趣味じゃないし、かといって同価格帯で比較すれば深緑の街(リネル)の方が美味いってのは常識だ。「緑豊かな流通要衝のメシ」は、世界でもトップクラスに美味いってお袋も言ってたし。

 って訳で、行き先にあてがない。さてどうしたもんか。




「兄ちゃん、ガイド雇わない?」


 ん?


「こっちこっち、後ろだよ!」


 後ろ・・・何もいないな。


「下、下!」


 下・・・、!!!!


「うぉわぁお!びっくりしたぁ!」

「ホントに気付いてなかったんだ・・・いいリアクションだったぜ、兄ちゃん!」


 おいこら、サムズアップはやめなさいサムズアップは。

 俺に声をかけてきたのは小さな男の子だった。うん、小さい。察するに、同年代平均と比べても小さい。そして細い。栄養状態が良くないんだろう。

 まあ、その辺は触れぬが花だ。


「やかましい。・・・んで、何か用か?」

「だから、ガイド雇わないか?」

「・・・いくらだ?」

「1日200ルランでいいぜ。」


 ・・・安っ!

 ガイドのレートがいくらなのかは知らないが、日雇いの労働報酬は一日大体500ルラン位だって聞いたことがある。ちなみに俺が履いてる靴が300ルラン、俺の小遣い一月分ちょいだ。ちなみにそんなに高級品じゃない。

 ・・・あやしい。


「で、その裏は?」

「べ、別に何もないよ!」


 ・・・じーーー。


「な、何もないってば!」


 ・・・じーーーーーー。


「う、そ、そりゃあおいら達の都合で有料の名所案内とかは出来ないけどさ・・・。」


 ・・・じーーーーーーーーー。


「・・・分かったよ!話しますってば!」

「よろしい。」


 うむ、やはりあったか。やはり子供、まだまだだねぇ。


「で、どういう魂胆だったんだ?」

「平たく言うとさ、おいら達の聖歌練習に客を呼びたかったんだよ。あれって一応無料ってことになってるけどさ、入場料代わりに有志で寄付を募ってるんだ。おいら達の孤児院の運営資金になるから少しでも集めたくって・・・。」


 なるほど、こいつ、孤児だったのか。


「ならガイド料とか言わないで素直に客引きすればよかったじゃねえか。」

「そうなんだけどさ、寄付って全額孤児院に行っちまうんだ。どうせ先生達がピン撥ねしておいら達のところにはほとんど来ないに決まってるんだ。」


 知りたくもねえ世知辛さ、って奴か。


「・・・小遣い稼ぎか?」

「違うよ!どうしても買いたいものがあったんだ!」

「何をさ?」

「・・・プレゼント。先生達とは別で、聖歌隊からボランティアに来てくれてるねーちゃんがいるんだ。今度来てくれるようになって5年の記念日でさ・・・。」

「・・・。」

「何とかして自力で稼ぎたかったんだ。騙そうとしたのは誤るよ。けど・・・」


 さて、どうしたもんかねぇ。

 話の要点は4つ。まずこいつがやったのは詐欺の部類だってこと。法律の話は良くわからないけど、金を多く払わせようとしたってことになっちまう。そしてその金がこいつに入るとなれば、きっと詐欺なんだろうと思う。

 んで、こいつの動機がおおいに善意だってこと。まあこれが嘘だったら大した役者だけど、どう見ても10歳超えてない子供にそこまで演技できるとも思えない。

 それと、普通に入場して寄付をしてもこいつの望みはかなわないってこと。察するにその先生とやらは子供にも分かる程度には腐ってるんだろう。こいつの体を見ればまともな飯を食ってないのは分かる。「教会」なんて大組織の運営する孤児院にもかかわらず、だ。

 最後に、俺が真相を聞いてしまった以上、見逃してハイサヨナラって訳にもいかないって事。


「話は分かった。けどあれじゃ詐欺だ、そんな方法で稼いだ金でプレゼントされてもうれしくねーだろに。」

「・・・けど・・・。」

「それに、お前あんなのやったら即捕まるぞ。「教会」の孤児院にいるって一発でばれるんだぜ?」

「あ・・・。」

「んで、捕まったなんてきいたらそのねーちゃん、きっと悲しむな。自分のために捕まったなんて、泣くしかねえだろよ。」

「・・・。」


 この辺はやっぱりはっきりさせとかねえとな。罪は罪だし。まあ未遂だけどさ。

 まあ、それはそれとして。


「まあ、プレゼントなんて何も高いものじゃなくたっていいんだ。」

「・・・え?」


 ちょっとしたおせっかいだ。これくらい、してもいいよな。


「お前、名前は?」

「え、こ、コロロ・・・。」

「何プレゼントしようと思ったんだ?」

「・・・ねーちゃん、歌が好きなんだっていうから、楽譜買おうかなって・・・。」

「よし、見に行こうぜ。」

「え・・・。」

「本屋・・・楽器屋か、どこよ?ガイドしてくれんだろ?」

「・・・おう!」




「ふーん、議会都市(デイトナ)で流行の歌の本か・・・。」

「うん、ねーちゃんちょくちょく立ち読みしてたんだ。5曲入りで200ルランなんだって。」


 結局その楽譜とやらは楽器屋の書棚コーナーにあった。店主に聞いたところ、こういう楽譜とかは普通の本屋にはあんまりないって話だ。ちなみに店主は人の良さそうなじーさまだった。まあ、服の背中に「音魂」なんてでっかく書いてあるファンキーなじーさまだけど・・・。

 それはさておき、俺は子供改めコロロの前にしゃがんだ。うん、目線がちょうどいい。


「いいか、よく聞け?」

「おうっ!」

「ここに100ルランある。これが今のガイド料だ。」

「・・・って足りないよ。」

「当たり前だろ?一件ガイドしただけだぜ?」

「・・・。」

「で、これで専用ノートと筆記用具を買う。」

「?」

「20ルランで買えちまうわけだ。残りは?」

「えっと、80ルラン?」

「おう、簡単な引き算だよな。んで、さっき確認したところこの店では2割の値段で本を借りられるサービスがある。もちろん新品なんぞは貸してくれないけどな。」

「・・・どういうこと?」

「まあ聞けって。んでもってこれ、5曲入りなんだろ?一日じゃとても無理だけど、2日がんばれば5曲は無理でも3曲くらいなら何とかなるだろ。」

「まさか、まさか・・・。」

「そ。あとは自分で書き写せ。」

「やっぱりかーーーーーーーーーー!」


 一応弁明しておくけどいくら俺がバカっていっても、さすがに足し算引き算程度は何とかなる。2割の値段は40ルラン(店主に確認した)。2日で80ルランだ。さっきの文具とあわせて100ルラン。うん、計算どおり。

 そんなこんなでしゃべってたら、店主も気になったのか顔を出してきた。


「そういう客は多いんじゃよ。実際に楽譜を買っていくよりも借りて練習しようとか書き写そうとかの方が客が多いくらいじゃし・・・。」

「へー。」


 古書収集が趣味の親父いわく、昔は本屋は本を売るよりも貸すほうがメインだったって話だ。びんぼーな音楽人たちはとりわけ需要が多いのかむしろ借りるのが主流だという。

 

「少年、事情は聞いたぞ。手伝うわけにはいかんが、書き方なんかの指導はしっかりと見てやるから、しっかりと書き写すんじゃ!」


 コロロの両肩をがっしりと掴んで語っている店主。いやあ、情熱的なじーさんだこと。


「・・・うん、おいら、やるよ!立派な楽譜書き上げて、ねーちゃんへのプレゼントにするんだ!」

「おー、がんばれがんばれ。」

「って兄ちゃんホントに思ってる?」


 まあジョークはさておき、プレゼントなんてのは真心が大事だしな。それが見てすぐに分かるプレゼントの方が、そのねーちゃんとやらも喜ぶだろうし。

 これ以上いても邪魔だと思った俺は、早速机に向かっているコロロには特に何もいわずに楽器屋を出た。ガイドのチップは払ったし、後は店主がうまくやってくれるだろ。

 いい暇つぶしになった。昼メシ食うのも忘れてたし、宿に戻るとすっかな。


side マテウス out


~2days after~


side 音楽づめの2日間を過ごした少年


「ねーちゃん!これ、皆からのプレゼント!」


 結局、おいらのノートには4曲分しか書けなかった。時間もそうだけど、紙が足りなかったんだ。まああれより紙の多いノートだと高くなっちゃうっていうし、しょうがないかな。


「これ、欲しかった新曲の楽譜・・・。」

「の写しなんだけどな、ホントは本物あげられたらよかったんだけど・・・。」

「コロ、あんたこんなノートなんてどうしたのよ?」

「え、べ、べつに、金ためて買っただけ、だけど?」


 う、いきなり疑うかねーちゃん。


「嘘おっしゃい!ためるような金があんたのどこにある!」


 鋭い。


「おねーちゃ、ちがうよ?」

「え?」


 俺をかばうようにねーちゃんの袖をくいくいと引っ張ったのは・・・妹分のネカネだ。


「ころにいちゃ、おしごとしてたよ?ころにいちゃよりおっきなひと、あんないしてたよ?」

「バ、バカ、しーーっ!」


 それは内緒だっていっただろ!

 ・・・ちらり。


「・・・コロ、あんたそれ、本当?」


 ねーちゃんはしっかりとこっちを見ている。

 あー、もうだめだ。


「・・・うん、ガイドの仕事。そのお客さんにノートとかの世話してもらったんだ。」


 実際はちょっと違ってあの兄ちゃんの善意に甘えちゃったわけだけど、兄ちゃんがそういう形に(体裁上)してくれたんだから、嘘は言ってない。

 けど、ねーちゃんはそれを聞くなり後ろを向いて、ノートを抱きしめるようにしたまま黙っちゃった。


「・・・?ねーちゃん?」

「おねーちゃ、だいじょぶ?どこかいたいの?」


 ねーちゃんは、泣いてた。

 おいらには見えないけど、ネカネの反応を見ればそんなの分かる。


「・・・ありがと。これ、一生大事にする・・・。」


 プレゼント作戦、大成功だ。

 でも、結局あの兄ちゃんの名前聞いてないや。それに楽譜を書くってのも結構面白かったな。楽器屋のじーちゃんに頼んだら、また教えてくれっかな?


side コロロ out




~この後20年を経て、コロロ少年は音楽家として世界に名を知らしめることになるが、それはまた別の話~

この国の貨幣単位は「ルラン」です。

日本の貨幣価値に換算して1ルラン=20円くらいと思ってください。

但し、物の価値はもちろん変動大有りです。

例えば、楽譜が5曲で4000円なんて種類にもよりますが現代日本ではめちゃめちゃ高いです。日本でも江戸時代くらいまで戻れば歌は習わないと知ることも出来なかったそうですが、そんな状況では楽譜の相場も高かっただろうと思います。また、剣が実用品である世界だからこそ、裕福な家庭とはいえマテウスの小遣いで剣が買えるなんてことにもなります。


 そんなわけで、この辺は生暖かい目で流してやってくださいm(_ _)m

 

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