スカートの裾が濡れてますよ
日常に潜む罠を描いたショートストーリーです。
雨の日にほんの少し親切心を出すだけでも、思いもよらない展開に巻き込まれることがあります。言葉一つで一変する恐怖(?)と悲哀を、気楽にお楽しみください
スカートの裾、濡れてますよ」
良かれと思って声をかけただけだった。
大雨の日のオフィス街。傘からはみ出た水滴で彼女のロングスカートの裾がぐっしょりと重そうになっていたから、ただの親切心で指摘したのだ。
しかし、彼女は目を見開き、一歩後退りした。
「……は? どこ見てるんですか? セクハラです!」
「えっ、違います! 本当に裾が濡れてて——」
あいにく、声が大きすぎた。そしてタイミングも最悪だった。
「ちょっと君、何やってるんだ!」
声を聞きつけた上司が駆けつけてくる。
「課長、聞いてください! この人、私の服が濡れててスケスケだとか、変態的な視線を向けてきたんです!」
「言い掛かりです! 裾! ただの裾の話です!」
パニックになった自分が大声で反論すると、周囲の社員が一斉にこちらを振り返った。「あの人セクハラしたの?」「スカートがどうとか言ってた」「最低……」というひそひそ話が瞬く間に広がり、尾ひれがついていく。
騒ぎを聞きつけた人事部の人間まで飛んできて、私はそのまま応接室へ連行された。
「違うんです、僕はただ雨で濡れた裾を……」
「言い訳は社内コンプライアンス委員会で聞きまーす」
たった一言の親切心が、なぜか「白昼堂々、女子社員の濡れた服を観察して卑猥な発言をした男」という事実にすり替わっていた。
事態はさらに悪化し、噂は社内チャットを駆け巡り、翌日にはなぜか「女子社員に水を引っかけて服を透けさせようとした危険人物」として全社に注意喚起のメールが回る羽目に。
濡れていたのは彼女のスカートの裾だけだったのに、濡れ衣を着せられた僕の社会生活は完全に冷や水を浴びせられてしまった。
著者あとがき】
最後までお読みいただきありがとうございました!
「親切心を出したらカツアゲされた」みたいなオチになってしまいましたが、現実のビニール傘はまさに“無記名の通貨”。駅の傘立てに置いた瞬間、それは自分のものであり、世界みんなのものになりますよね(笑)。
みなさんも雨の日に「あ、これ自分の傘だっけ…?」と迷ったら、背後に気配がないか十分ご注意ください。それでは、また次の「日常の罠」でお会いしましょう




