↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアル・ログイン -やり込んだゲームに本当に入ったら、気づけば家族が増えていたアラフォー社畜-  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/47

第40話:束の間の休息

 無事に街の近郊まで戻ってきた浩之たちは、無用な混乱を避けるためにアラクネを郊外の岩陰に潜伏させた。


「アラクネはここで待機してくれ」


『了解しました。なお、人間居住区域への大型兵器の持ち込みは、現地の自警組織との物理的衝突を招く確率が98.4%です』


「分かってる」


『補足。旧文明時代においても、巨大兵器を宿泊施設へ持ち込んだ記録は存在しません』


「誰がそんな記録調べろと言った」


 浩之が呆れたように息を吐くと、アラクネは静かにバイザーの光を消し、待機モードへと移行した。


 その後、浩之とシェラは真っ先に冒険者ギルド指定の宿屋へと向かった。

 個別の部屋が割り当てられた廊下で、浩之は自分の部屋の鍵を回しながらシェラを振り返った。


「シェラ。一時間後に、俺の部屋に来い」


「……えっ?」


 不意の言葉に、シェラは小さく跳ねるように肩を揺らした。


「あ、あの……『部屋に来い』って……二人きりで……?」


「ああ。今日は色々とあったからな。人目につかない部屋の方がいい」


「人目につかない……っ!?」


 シェラの顔が一瞬で林檎のように真っ赤に染まる。


「あ……う、うん……わかった。一時間後だね……行くね……」


 蚊の鳴くような声でそう答えると、シェラは逃げるように自分の部屋へと駆け込み、バタンとドアを閉めてしまった。


 浩之は閉まったドアを見つめ、少し眉をひそめる。


(……なんだあいつ? 急に顔を真っ赤にして。まだ激戦のショックが抜けてないのか?)

(いや、怪我の痛みに耐えてる感じでもなかったな……まあいい、あとで様子を見るか)


 後でポーションでも渡して様子を見るかと思いつつ、浩之は自分の部屋へと足を踏み入れた。


 室内に入り、しっかりと施錠を確認した浩之は、すぐにシステムウィンドウを空中に展開した。

 目的は一つ。オーバーロードと自爆技で完全に大破した「バスタースーツ」一式の修復だ。


「……さて。修理に出すとしよう」


 浩之はメニュー画面から特定のアイコンをタップし、この『アポカリプス・リユイン』の世界から一時的なログアウト。

 地球を経由し、かつてクリアした『ドット・バスター』の世界へ移動した。


 視界が光に包まれ、次に目を開けた場所は、無数のモニターと電子機材が並ぶ見慣れたラボだった。

 SFアクションゲーム『ドット・バスター』の世界。

 その拠点である、ピクセル博士の研究所だ。


「おお、ヒロユキじゃないか! 久しぶりじゃな……って、なんじゃそのスクラップは!?」


 白衣を着た初老のピクセル博士が、浩之のインベントリから床にゴトリと出された焦げ臭い金属の残骸を見て目を剥いた。


「ヒロユキさん! そ、それ……バスタースーツとバスターウェポンですよね!?」


 奥から駆け寄ってきたピートも、原型を留めていないバスター装備の残骸を見て絶句している。


「悪いな。ちょっと物理火力がバグみたいな多脚戦車とやり合って、限界突破(オーバーロード)で自爆特攻した」


「じ、自爆特攻って……ヒロユキは、生身で巨大機械兵器『ビッグブル』をぶっ飛ばす男じゃぞ!? それがバスタースーツまで着込んでこの有様とは……いったい何と戦っておるんじゃ!?」


「……ただの門番だよ」


 浩之が苦笑交じりに答えると、ピートがぎゅっと拳を握りしめて一歩前に出た。


「ヒロユキ! 僕も行きます! ボクの力を貸せば、そんな敵――」


「気持ちはありがたいが、ダメだ」


 浩之は即座に首を振り、ピートの肩にポンと手を置いた。


「今までしっかりと説明していなかったが……俺はこことは違う世界の人間なんだ。システム上、他の世界の奴を向こうへ連れて行くことはできない」


「そんな……」


「お前のその気持ちだけで十分だ。ありがとうな」


 ピートが悔しそうに俯く横で、ピクセル博士が残骸を調べながら大きく息を吐いた。


「……よしわかった。事情は深く聞かん。この装備はワシが全力を挙げて修復・強化しておこう。任せておけ」


「助かる。頼むよ、博士」


「だがな、ヒロユキ。くれぐれも無茶な行動はするなよ。お主の体は一つしかないんじゃからな」


「分かってる。ただ、修理が終わるまで俺の防御力と火力が紙になる。何か代わりの繋ぎの武器はないか?」


 浩之の要求に、博士とピートは顔を見合わせた。


「ボクのバスタースーツはボク専用のOSに調整されているから貸せませんけど……これなら、ヒロユキさんでも使えます!」


 ピートが奥の武器庫から持ち出してきたのは、身の丈ほどある重厚な遠距離用バスターライフルだった。


「遠距離専用の通常弾と、エネルギーを圧縮したチャージショットが撃てます。持っていってください!」


「ありがたい。長距離の火力が欲しかったところだ」


 さらに博士が、一つの銀色の金属剣を浩之に投げ渡した。


「近接武器として、この『プラズマ・エッジ』を持っていけ」


「ただの金属の剣に見えるが?」


「通常時はただの頑丈な剣じゃが、手元のスイッチを入れると剣身に高密度のプラズマエネルギーを纏い、あらゆる装甲を両断する驚異の切れ味を生み出す。ただし――連続使用時間は10分じゃ。それを超えると冷却機構が焼き切れる」


「10分のヒーロー仕様か。十分すぎる」


 浩之は新しい二つの手札をインベントリに収納し、二人に向けて軽く手を挙げた。


「じゃあ、修理が終わった頃にまた来る」


「無茶はするなよ!」


 博士とピートに見送られながら、浩之は再びログアウト処理を行い、『アポカリプス・リユイン』の宿屋の自室へと帰還した。


 ◇


 一方、自室に飛び込んだシェラは、ドアに背中を預けたまま激しく上下する胸を押さえていた。


「どうしよう……どうしようどうしよう……! 『部屋に来い』って……そんなの、そういうことに決まってるじゃない……っ!」


 心臓が痛いほど鳴っていた。


「落ち着いて、私……落ち着いて……」


 そう自分に言い聞かせても、胸の奥の早鐘のような鼓動は一向に収まりそうにない。

 シェラは慌てて木桶に水を汲むと、手ぬぐいを濡らし、全身の汗と砂埃を念入りに拭い始めた。首筋から腕、そして手足へと手ぬぐいを滑らせていく。


「せめて……綺麗にしていかないと……」


 小さな姿見の前に立ち、髪を何度も手ぐしで整え、服の乱れを鏡で確かめる。

 襟元を少し整えては首を傾げ、裾のしわを伸ばしてはもう一度鏡を見つめ直した。


「この服……変じゃないよね? ……やっぱり、少し無骨かな……」


 誰も答えてくれない静かな部屋で、ポツリと小さく呟いてしまう。

 冒険者としての動きやすさを優先した服。仕立ての良いドレスでもなんでもないけれど、いまのシェラにとっては世界一重要な衣装に思えた。


(ヒロユキのバカ……っ。こんなの、心の準備もさせてくれないなんて……!)

(でも……あの過酷な戦いを一緒に乗り越えたんだもんね……)

(もしかして……私の気持ち、気付いてくれてたのかな……)


 そこまで考えが至った瞬間、全身の血が頭に上ったかのように顔が一気に熱くなった。


「きゃああっ……! 私、私ったら何考えてるのぉ……!」


 両手で真っ赤な顔を覆ったまま、ベッドへ倒れ込む。

 枕に顔を埋めたまま、「むりむりむり……!」ともがくように小さく足をばたつかせた。


 ……そして、数秒。


 ふと冷静になり、自分のさっきまでの行動を思い返した瞬間――ピタッと動きを止める。


「……っ、恥ずかしすぎるよぉ……」


 もごもごとした消え入るような声で呟き、熱くなった両頬を冷ますように、ぎゅっと枕を抱きしめた。


 ――数秒後。


 すー、はー、と大きく深呼吸をひとつ。

 上気した顔を持ち上げ、シェラはぎゅっと胸元の服を握りしめた。


(……うん。ここで逃げちゃダメだよね)

(あの人が私に向き合おうとしてくれてるなら……私だって、ちゃんと向き合わなきゃ)


 覚悟を決めたシェラは静かに立ち上がり、ドアノブへと手を伸ばした。


 浩之の部屋の前。

 ドアをノックする手が微かに震える。


 コンコン。


 遠慮がちに叩き、シェラは上目遣いで声を絞り出した。


「ヒロユキ……きたよ……」


「おう、入れ。鍵は開いてるぞ」


 意を決してドアノブを回し、そっと室内へ足を踏み入れるシェラ。

 彼女は念入りに身体を拭き、髪を綺麗に整え、ほんのりと頬を赤らめている。


 しかし、甘い緊張感に包まれていた彼女の鼻腔を突いたのは――妖艶な空気ではなく、香ばしく甘辛い醤油と揚げ物の、抗いがたい暴力的な匂いだった。


「……ん? シェラ、どうしてそんなドア際で固まってるんだ?」


 シェラは絶句したまま、部屋の中央にある丸テーブルを見つめていた。

 そこには、この世界の住人が一生かかってもお目にかかれないようなご馳走が所狭しと並べられていた。


 タレがツヤツヤと光る『鶏肉とネギの串焼き』。

 カリッと揚がったキツネ色の『和風から揚げ』と『ホクホクのコロッケ』。

 さらにはプラスチック容器に入った『みたらし団子』や『ショートケーキ』まで。


「いやー、合成レーションは不味すぎだからな。今日は奢りだ。ポーションと回復魔法じゃ癒えない精神的疲労には、やっぱり肉と甘いもんだろ」


「ヒロユキ……これ……湯気が出てる……」


「ああ。インベントリ内の時間は完全に停止するからな。こういう時、ゲーム仕様の謎システムは本当にありがたい」


 浩之はどこまでも晴れやかな笑顔で、丸パイプ椅子を引いて手招きする。


「冷めないうちに食おうぜ。シェラ?」


「…………」


 シェラは固まっていた。

 真っ赤だった顔が、今度は羞恥と拍子抜けと、そして過剰な期待を抱いた自分への恥ずかしさで、さらに沸騰しそうなほど赤く染まっていく。


(身体……念入りに拭いちゃったじゃん……! 髪も……ちゃんと整えてきたのに……っ!)


「シェラ? どうした、本当に顔が赤いが――」


「~~~~っ!!」


 浩之が心配そうに近づこうとした瞬間、シェラは目端に涙を浮かべながら一気に距離を詰めた。


「嬉しいけど……っ! 嬉しいけどさぁっ……!!」


 ぽか! ぽかぽか!


「なっ、おい!? なんだ急に!?」


「なんか腹立つーーーっ!! ヒロユキのバカ! アンポンタン! 鈍感!!」


 両手をグーにして、浩之の胸元をポカポカと力なく叩くシェラ。

 当然、浩之にはノーダメージだが、あまりの剣幕と理不尽な怒りに浩之は本気で困惑した。


「おいおい、美味いもん食わせようとしただけだろ!? なんで怒られてんだ俺は!?」


「うるさい! 食べる! 全部食べてやるんだからね!!」


 シェラはプンプンと肩を怒らせながらバタリと椅子に座ると、串焼きを一本ひったくるように掴み、思い切りかぶりついた。


 ――ジュワッと口の中に広がる、芳醇な肉汁と絶品のタレの旨味。


「……っう、うまぁ……っ……」


「だろ? スーパーのタイムセール品だけどな」


「うぐぐ……美味しいのがまた腹立つ……! んぐっ……おかわり!」


 涙目になりながら唐揚げと甘い団子を交互に口へ運ぶシェラと、「落ち着いて食えよ」と苦笑しながらお茶を差し出す浩之。

 激闘の疲れを忘れさせるような、賑やかで少し甘酸っぱい夜が、静かに更けていくのだった。

【シェラより】


ちょっと、読者のみなさん!! 聞いてます!?

『アポカリプス・リユイン』編ヒロイン(自称じゃないです!)のシェラです!


本編を読んだみなさんなら、私の気持ち分かってくれますよね!?

あんな過酷な戦いの直後に、二人きりで「一時間後に俺の部屋に来い」ですよ!?

しかも「人目につかない部屋の方がいい」なんて、そんなのどう考えたって『そういうこと』だと思うじゃないですか――っ!!


なのに……!

汗を拭いて、髪も整えて、心臓が爆発しそうになりながらドアを開けたら……


テーブルの上に、唐揚げと焼き鳥とみたらし団子って何ですかぁぁぁっ!?!?


湯気立ってるし! 甘辛いタレの匂いで部屋中いっぱいになってるし!

しかも本人は「スーパーのタイムセール品だけどな」ってドヤ顔の爽やか笑顔ですよ!?

鈍感にもほどがあるでしょあのアラフォー社畜!!

……美味しかったのがまた余計に悔しいし腹が立ちます……!


はぁ……もう恥ずかしすぎて、今夜は枕に顔を埋めて一生じたばた転がっていたいです……。


私のこの行き場のない恥ずかしさと怒りに共感してくださった読者のみなさま!

どうか慰めのブックマークや評価の★をポチッと押して、私を励ましてください……!

(あとヒロユキに『女心を勉強しろ』ってレビューで言ってやってください……!)


これからも応援、よろしくお願いしますっ!


シェラ より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。