第15話:ドットバスター2号、始動
秘密基地の地下工房。スポットライトが照らし出す中央の台座で、浩之は新しく装着した装備の感触を確かめるように、ゆっくりと握り拳を作った。
身体に吸い付くようにフィットするシックな黒と銀のハイテクインナースーツ。その上から、重厚な金属光沢を放つ胸部や肩のメタリックアーマーがガチリと噛み合わさっている。
「……ふむ。見た目は思ったより悪くないな」
「当たり前じゃ!」
ピクセル博士が腰に手を当て、鼻を鳴らした。
「そいつはワシが開発し、出力が高すぎて凍結していた『プロトタイプ・バスタースーツ』じゃ。本来なら出力の負荷に肉体が耐えきれず、普通の人間なら骨が砕けて筋肉が断裂する。じゃが、物理法則を無視したお前の狂った耐久値と膂力なら、このスーツのパワーを100%引き出せるはずじゃ!」
「まさにヒロユキのためのスーツだね! 頼もしいよ、ドットバスター2号!」
隣でピートが嬉しそうに浩之の肩を叩いた。
浩之は眉をひそめ、不満そうにピートと博士を見下ろした。
「……待て。『2号』ってネーミングはどうなんだ? プロトタイプなんだから、もっとこう『ドットバスター・ゼロ』とか『プロト・バスター』とかの方がロマンがあるだろ」
「何を言っておる! ピートが1号、後から来たお前が2号! 分かりやすくて一番じゃろ!」
「そうだよ、ヒロユキ! 僕とヒロユキで、ダブルバスターズだ!」
「変なところで頑固だな……」
三十九歳のゲーマーとしてのこだわりをあっさり却下され、浩之は深々と溜め息をついた。かくして、彼のコードネームは強制的に『ドットバスター2号』に決定してしまったのだった。
* * *
「さて、2号。お前の試作兵装は『可変型バスターウェポン』じゃ。お前の戦闘スタイルに合わせて、様々な形態へ変形するぞ」
博士が工房のモニターに武器の構造図を映し出す。
「ピートの1号用バスターウェポンは単純な射撃特化型じゃが、お前の2号用は、お前の変幻自在な戦闘スタイルに合わせてモードチェンジが可能な試作型兵装になっておる。次の区画――敵の兵器工場エリアで実戦テストを行ってこい!」
「了解だ。……動作検証なら得意分野だ」
浩之は可変型バスターウェポンのグリップを握り直し、ピートと共に秘密基地を後にした。
* * *
地上へと続く非常ハッチを抜けると、そこは巨大な煙突から黒煙が吐き出される工場地帯だった。
鉄骨が剥き出しになったキャットウォークやベルトコンベアが入り組む通路を進むと、前方から集弾音とともに大量の二足歩行ロボット兵(雑魚ユニット)が押し寄せてくる。
「来たぞ! ヒロユキ、足並みを揃えて撃ち破ろう!」
「ああ。まずは基本性能の確認からだ」
浩之は右腕の可変型バスターウェポンを構え、押し寄せる敵群に向けてトリガーを引いた。
――ビシュッ! ビシュシュッ!
【通常バスターモード】
銃口から放たれた高濃度の光弾が、吸い込まれるように敵兵の胸部に直撃する。ピートの連射ショットよりも一発一発の重みと出力が高く、直撃を受けたロボット兵が一瞬で原形を留めず爆散した。
「よし、基本ショットの威力は申し分ないな。次は……」
浩之はエネルギーをチャージし、銃口に眩い光を収束させた。
【フルチャージモード】
ゴオッ! という重厚な発射音とともに、巨大な貫通光弾が一直線に放たれる。
通路の奥から立ち塞がった中ボス級の大型装甲ロボットに対し、チャージ弾は正面装甲を容易く撃ち抜き、背後の雑魚群ごと一列になぎ倒して爆破した。
「すごい威力だ……! 中ボスが一撃なんて!」
ピートが目を丸くする。だが、浩之の検証は止まらない。
前方左右の物陰から、鋭い鉄爪を持った近接型の高速メカが躍り出て、浩之の死角へと襲いかかってきた。
「ヒロユキ、危ない! 近づかれ――」
「モード切替」
【ブレードモード】
カチリと機構がスライドし、バスターの銃口から眩いプラズマの光刃が伸長する。
浩之は冷静に身を捻り、襲いかかる高速メカの爪を紙一重でかわすと、光刃を真横に一閃させた。
スパァンッ!
美しい切断面を残し、高速メカが両断されて崩れ落ちる。
「さらに――」
【ハンマーモード】
可変ウェポンの先端が重厚な金槌状のエネルギーブロックへと変形。
浩之は俊敏75の加速で上空へ跳躍すると、キャットウォークの中央に陣取っていた重装甲メカの頭部装甲へ、肉体出力とスーツの補正を乗せた一撃を叩きつけた。
ドガァァァァンッ!!!!
激しい衝撃波が同心円状に広がり、直撃を受けた重装甲メカだけでなく、周囲にいた敵ユニットの関節回路まで衝撃で粉砕し、全滅させる。
「近接・打撃ともに追従性は良好。スーツのパワーアシストのおかげで、振り抜き後の隙も出ないな」
浩之が手応えを噛み締めていると、工場の奥の巨大ハッチが開き、天井のキャノン砲と無数の歩哨ロボットが一斉に銃口をこちらへ向けてきた。
『敵性反応多数! 斉射開始!』
雨あられと降り注ぐ実体弾と光線の集中砲火。
「しまっ……隠れる場所がない!?」
焦るピートの前に、浩之が前足を踏み出して割り込んだ。
【ガードモード】
可変ウェポンが扇状に展開し、浩之の前方に青白い半透明のエネルギーシールドが広がる。
ドカカカカッ! バチチチッ!
猛烈な弾幕がシールドに激突し、激しい火花を散らすが、浩之の実効耐久値とスーツの防護機能により、シールドは微動だにしない。完全に無傷で敵の集中砲火を受け止めてみせた。
「敵の攻撃パターン、および射撃軸の固定を確認。――掃討に移行する」
浩之はシールドを解除すると同時に、ウェポンを最大展開させた。
【ランチャーモード】
可変機構が砲身を伸長させ、広域拡散用の誘導エネルギー弾が装填される。
「消えろ」
ドバババババババッ!!
放たれた無数の誘導光弾が、放物線を描いて工場内に拡散。キャノン砲や歩哨ロボットの群れへ正確に追尾・着弾し、一瞬にして工場地帯の一角を連鎖大爆発の炎で包み込んだ。
* * *
静寂が戻った工場内。散らばる鉄くずと黒煙の中で、ピートは開いた口が塞がらない様子で浩之を見つめていた。
「す……すごすぎるよヒロユキ! 一人で一個師団を壊滅させちゃったよ!?」
唖然とするピートをよそに、浩之は視線を工場地帯の最深部――重厚な流体金属扉へと向けた。
地響きとともに扉が左右に開き、灼熱の溶融炉が広がる広域エリアが現れる。
ズシン……ズシン……!
溶融炉の中央から躍り出たのは、超大型の重装甲メカ。
巨大な二つのスチールシザー(鋼鉄のハサミ)を持ち、背後からは電撃を帯びた長大な尾が威嚇するように持ち上がっていた。
2面ボス『スコーピオンタンク』だ。
「ブシャァァァッ!!」
「ヒロユキ! あれは工場エリアのエリアボス、スコーピオンタンクだ! 正面のハサミはバスター弾をはじき返すし、尾からの電撃レーザーは回避不能レベルの速さだ! 一旦下がりつつ、二人で連携して――」
「いや、丁度いい」
浩之はピートの言葉を制し、可変バスターウェポンを構えて一歩前に踏み出した。
「せっかくだ。大型ボスに対する耐久性と実戦でのフルコンボのテストも済ませておく」
「え……? ひとりで……!?」
スコーピオンタンクが咆哮を上げ、尾の先端から青白い高圧電撃レーザーを放ってきた。回避不能のスピードで迫る激しい雷撃。
「【ガードモード】」
バシィィィンッ!!
展開したエネルギーシールドが電撃レーザーを真正面から受け止め、完全に無効化する。
「なっ……ボスの一撃をガードで耐え切った!?!?」と目を見張るピート。
「次は距離を詰める。【ブレードモード】」
超加速で一気に間合いを詰めた浩之は、横薙ぎに繰り出されたスコーピオンタンクの巨大なハサミに対し、プラズマ光刃を鋭く閃かせた。
ズバァァァンッ!
装甲ごとハサミを切り落とされたボスが激しく狂い悶える。
「間髪入れずに叩く。【ハンマーモード】」
上空へ高く跳躍した浩之は、重量級のハンマーへと変形させたウェポンをボスの頭部装甲へ叩きつけた。
ドガアァァァンッ!!
激しい衝撃波がスコーピオンタンクの巨体を内部から破壊し、脚部が歪んで完全に地面へ崩れ落ちる。完全に無力化されたボスの目の前で、浩之は銃口を直撃距離に突きつけた。
「【最大出力射撃】――ゼロ距離射撃」
ドッバアァァァァンッ!!!!
最大チャージの貫通光弾が内部コアを直撃。2面ボス『スコーピオンタンク』は盛大な大爆発を起こし、一瞬にして広大な溶融炉の広場ごと吹き飛び、大量の屑鉄となって崩れ去った。
静寂が戻った工場地帯の最奥。黒煙の中で、ピートは完全に魂が抜けたような顔で立ち尽くしていた。
『つ……通信:おい……聞こえるか……2号……』
インカムから聞こえるピクセル博士の声も、どこか引きつっていた。
『単独で……しかもノーダメージで工場地帯のボスを完封撃破じゃと……? お前の動作検証は、一体どうなっておるんじゃ……』
「各種モードの連携、追従性、および大型機に対する火力補正も確認完了だ。プロトタイプ・バスタースーツ、非の打ち所がない出来栄えだよ、博士」
浩之は可変ウェポンを格納状態へと戻し、軽く肩を回した。
(プロトタイプ・バスタースーツ……期待以上の性能だな。身体への負荷も、俺の隠しステータスならまったく問題ない)
インナースーツの着心地、メタリックアーマーの着脱ギミック、そして可変ウェポンの各種モード。
この「ゲーム世界の技術と仕様」を実戦で体感したことで、レイアへ贈る『ドットバード』や『レイア用バスタースーツ』にどんな機能を組み込んでもらうか、博士へ伝えるイメージがより具体的になってきた。まずはこの悪の組織をサクッと壊滅させて、博士に最高の仕事をしてもらうとしよう。
「よし、テスト終了だ。このまま敵の本拠地まで一気に駆け抜けるぞ、ピート」
「う、うん……! よろしく頼むよ……ドットバスター2号……(本当は2号じゃなくてボスより強い何かじゃないのかな……)」
引きつった笑いを浮かべつつも頼もしそうに頷くピートを伴い、ドットバスター2号は、新たな力を携えて鋼鉄の街を力強く踏み出したのだった。




