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ある女錬金術師の試み  作者:
episode 2
6/58

同じ顔、ふたつ 3

 やや薄暗い廊下を歩きながら、マリーは焦っていた。

 そもそもどうして「彼」がなかったのだろう?

 探すにしても、まったく手がかりがないのだ。ただ、まだそんなに時間がたっていないから、遠くへは行っていないだろうというのが唯一の救いだった。

 廊下を歩きながら、片端から鍵のかかっていない扉を開けてみる。

 ……いない。

 少し美形に作りすぎたのだろうか?

 誰かが気にいって持ち帰ってしまったのだろうか?

 それとも、怪しい研究に使おうと持って行ってしまったのだろうか?

 一番ありそうなのは最後の選択肢だ。

 なにしろこの学院はそういう研究をする場所なのだから。

 マリーはいっそのこと、このまま放置してしまおうかとも考えた。クリスさえ口止め出来れば、他に知る者はいないのだ。

 マリーはそんなことを考えながら、廊下を歩き、ふと足をとめた。

 ここから先は「悪魔研究」をしている場所だ。学内でも極めて忌避されている場所である。マリーもあまりいい印象は抱いていない。

 かつて出資していた貴族の青年が死んだことがある。悪魔に魂を食われたのでは、などと噂されているが、真偽が定かではない。

 行きたくない。

 マリーは心の底からそう思った。

 大体、研究内容が悪魔についてだけならともかく、召喚まで含まれているのが嫌だ。

 あんな醜いものに魂を食われるなど、考えただけで身の毛がよだつ。

 だからといって、スルーしてしまう訳にもいかない。

 どうしよう。

 悩んでいると、なにやら歓声が聞こえた。

 マリーは思わず身を固めた。何があったのだろう。気持ち悪すぎる。しかももう夏も近いうえ、昼間だというのに、真黒なカーテンを締めきっている。

 壁に設置された燭台のロウソクの炎がゆらゆらと揺らめく。

 そのオレンジ色の炎に照らされて、何かがゆらり、と動いた。

「ひっ!」

 マリーは思わず後ずさった。

 もういい、もう嫌だ。ここを探すのは諦めよう。しかし、暗闇に背を向けるのが怖くて足が動かない。

 男たちに強い女だとか、クールだとか言われることの多いマリーだが、そんなことは全くない。

 むしろ逆で、かなりの臆病者なのだ。

 外見のせいでそう思われてしまうのもマリーの悩みの一つだった。

 恐怖で涙が出てきた。

 それでも動けないマリーの前に、それは現れた。

「そ、そんな」

 ショックで言葉すら出てこない。

 「彼」は見つかった。というか、いま目の前にいる。

 しかも動いている。

 「彼」はマリーの目を見て、妖艶にほほ笑んだ。

 そして、硬直したままのマリーの前まで「全裸」でやってきて、おもむろに顎に手を掛けて上を向かせる。頭が真っ白になっているマリーはなすがままだ。

「ふぅん、なかなかの上玉じゃないか。丁度いい、あんた俺と契約しない?

 いい夢見させてあげるよ」

 アレックスの声とは違う、優しい声。その声は耳をくすぐり、背筋をぞわり、と粟立たせる。

 赤く輝く瞳がマリーを射抜くように見つめてくる。

 瞳の色は確かに金色にしたはずなのに、その中に炎でも宿したような金赤色に変貌していた。

 整った薄い唇からも、白い牙がこぼれおちている。

 少しずつ、その唇が近づいてくる。

 逃げなくては、とマリーが思った時、暗闇で派手な音がした。人が転んだようなドタッ、バタッという感じの音だ。

 少しして、暗闇から黒ずくめの女性が出てきた。

「待って! 待って下さい! ハウエルズ様、ご契約はこの私が仰せつかります、どうか、どうか!」

 悪魔学研究所からまろびでてきた少女は、見たところそこの学生のようだった。黒ローブの下に、白い制服が見える。可愛らしい美少女だが、狂気めいた顔でこちらににじり寄ってくるため非常に怖い。

「お願いです、お願いです!」

 少女はすがりつくように「彼」、どうやらハウエルズというらしいが、その足に両腕を絡めて何度も何度も願いをこう。

 が、ハウエルズは至極面倒そうな顔で、

「えー、おまえまずそうだからやだ」

 と言い放った。

 美少女はその言葉に泣き崩れた。

 ハウエルズはそれに一瞥をくれただけで、またすぐにマリーに向き直った。


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