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ある女錬金術師の試み  作者:
episode 15
45/58

悪魔学科の女 3

 女性はジュディと名乗り、自分は悪魔学科で講師を務めている、と言った。

「あなたは錬金術科の方でしたか。あのときはすみませんでした。

 私、初めて儀式を行って、上手くいっちゃったもので、大興奮してまして、あの体がどういう経緯でそこにあったかとか、なんにも考えなしに使っちゃったんです」

 申し訳なさそうな顔をしつつ言うが、声がはしゃいでいる。

 マリーは渋面でジュディを見て、ため息をついた。

「まあ、だいたいそんなことだろうと思ってましたけどね。

 それで、ハウエルズに会いたい理由はなんなんですか?」

「そんなこと決まっているじゃありませんか。聞くんですよ、いろいろと。

 悪魔、という神秘的な存在が、どんな考えを持ち、どんなふうに生まれ、どんなふうにひとを堕落させるのか、それに、堕天使という言葉もあるくらいですからね、もともと天使だったのか、天使だったら神とはどのような存在なのか……ああ、たまりませんよね」

 ジュディはうっとりとしながら語る。

 マリーは頭痛がしてきた。こういう手あいは、大学院にはたまにいる。ようするに、変人奇人の類だ。

 頭はおそろしく良いのだが、人間性が微妙にだめで、社会性がまったくないタイプであるために、大学院にしか居場所がないのである。

 おそらく、彼女もそういうタイプなのだ。

 腹がたっていたこともあり、マリーは勝手に決め付けた。

「それで、会わせていただけるのでしょうか?」

 ジュディは懇願するような目でマリーを見つめた。

 マリーは腹立たしいので、断ってしまおうか、とも考えたのだが、ふと、考え直す。

 そうだ。わざわざ自分で調べなくても、悪魔に詳しい人物が、目の前にいるではないか。

 手伝ってもらって悪いことはないはずだ。

 なにしろ、今現在マリーが悩むはめになったのは、彼女のせいなのだから。

「いいわよ。ただし、今ちょっと面倒なことになっているの……ねえ、悪魔の魂が傷ついた場合に、なにか有効な手段、みたいなのってあるの?」

 マリーが言うと、ジュディは表情を一変させた。

「まさか、ハウエルズ様の身に何か!」

 ただでさえ白い顔が、ますます蝋のように白くなる。

「うん、まあ、ちょっと……捕縛用の魔法陣に捕まりかけちゃって、傷ついちゃったの」

「私に、私に見せて下さい!」

「方法があるの? 手伝うからまずそれを教えて」

 マリーが問うと、ジュディは少し考え込むようなしぐさをして、唸る。

「う~ん、悪魔の治療ということについては、私も読んだことがありません。もともと、悪魔は自己治癒能力が異常に高いのです。少々の傷くらいなら、すぐに治ってしまうはずです。

 それが治らないということは、何かが変化したとしか」

 ジュディの言葉に、マリーはやはり、と思った。

「もともと、悪魔は魂だけの存在に近い、というのは私も読んだわ。

 それが、ああして実体を得てしまった、ということが関係しているのかしら?」

 そう聞くと、ジュディはうなずいた。

「おそらく、そうだと思います」

「……じゃあ、体から切り離せればいいんじゃないかしら?」

「多分、そうだと思います。でも、出て行きたければ自ら出ていけるはずですけど」

「それがね、そうでもないみたいなの……とりあえず、見てみてくれる? もしも体と魂を切り離す儀式のようなものがあれば、やってみて欲しいの」

 マリーが言うと、ジュディはちょっと意外そうな顔をしてマリーを見た。

「マリーさん、ハウエルズ様のこと好きになっちゃったんですか?」

 ジュディは唐突に言った。マリーは言葉に詰まり、目を見開いて、しばらく黙りこむ。

「な、何でそんなこと……」

「だって、そうじゃなきゃ助けたいなんて思いませんよ。相手は悪魔です、人間ではありません。たぶらかされたふうにも見えないし、だったら、そうだとしか」

 ジュディはずけずけと言いたいことを言う。

 マリーは否定も出来ず、言葉に詰まってジュディを睨みつけた。

 頭をフル回転させ、言い返せる言葉を探す。

「あなたの思い違いよ」

「えぇ~、そうは見えないんだけどなあ」

「ああもう! いいから、私の部屋に来てよ、彼、今動けないの。会わせて欲しいんでしょ?」

 マリーは怒って言った。

 すると、ジュディは突然態度を変える。

「はいはい、会いたいです、行きます!」

「じゃあついてきて……」

 目を輝かせはじめたジュディを見て、マリーは疲労を感じた。

 彼女の手を借りようなどとずるい手を考えたのが、間違いだったかもしれない。それでも、もう言ってしまったことは取り消せないのだ。

 マリーはため息をつきながら、ジュディを連れて図書館をあとにしたのだった。



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