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ある女錬金術師の試み  作者:
episode 15
43/58

悪魔学科の女 1

 マリーはハウエルズの寝顔を見ながら、どうすればいいのだろう、と考えていた。

 彼はどんどん人間に近くなってきているようだ。最初のころは、眠りすら必要としていないふうだったのに。今では、こんなにも無防備な寝顔をさらしている。

 こんなことが、起こるものだとは、思いもしなかった。

「……このまま、ハウエルズが人間になっちゃったら、どうなるのかな」

 ぽつり、とつぶやいてみて、マリーはため息をついた。

 悪魔が入り込んでしまったとはいえ、この身体は自分が生み出したものだ。作った時は、しばらく眺めて過ごし、やがて体が朽ちたら、どこか迷惑にならない場所へ、夢や望みや嘆きや、その他、もろもろの苦しい感情とともに、埋めてしまおうと思っていた。

 けれどもし、彼が生きてしまったら?

 それは、そもそもどういう存在になるのだろう。

 どういう定義の上に成り立つ生物になるのだろう。

 マリーも、悪魔について調べたことはあるものの、何から何まで、詳しいことはわからないことだらけだ。とにかく、細かいことについては、ハウエルズ自身に聞くのが一番良いだろう。

 けれど、彼が回復するのにはもう少しかかりそうだ。

 その間は、図書館でいろいろと調べてみよう。 

 そう決めて、マリーは複雑な気持ちを押しこめた。こんなふうに、普通の人間みたいに、弱っている姿を見ると、こころが動いてしまう。

 アレックスは、決して弱いところを見せようとはしない。

 そんな彼を、愛しているはずなのに、こんなにも気持ちが引き裂かれるのはどうしてなのだろう。そんなことが頭にうかび、マリーは激しく首を横に振った。思考がやや混乱しているいま、そのことについて考えるのは良いことではない。

 いまは、ハウエルズに回復してもらうこと。そして、彼自身がどうしたいのか聞くこと。

 そのこと以外は、考えても無意味だ。

 そうこころを決めた後、マリーは戸のほうに目をやって、血の気が引いた。鍵が壊れたままだ。あのまま放置していて、もしも、誰かが訪ねてきたら困る。それがアレックスだった場合は……。

 けれど、いまはここを動けない。ハウエルズの手を、放すことなど出来ない。

 マリーは祈った。せめて今日一日だけでいいから、いや、ハウエルズが目覚めるまででいいから、誰も訪ねてきたりしませんように、と。

 それから約三時間後にハウエルズが目覚めるまで、マリーはやきもきして過ごすはめになってしまったのだった。 

 


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