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ある女錬金術師の試み  作者:
episode 13
40/58

罠とほころび 3

 ラウンジは少し散らかっていた。ここに残った研究員たちが、ここで新年を祝ったり、酔っ払って騒いだのかもしれない。もう開けてずいぶん経つのに、まだどんちゃん騒ぎし足りないようだ。それを見て怒る管理人の顔が目に浮かぶ。

 マリーはくすくす笑いながら、自室へと向かった。

 やがて、部屋へたどりつくと、自室の戸がうっすらと開いていることに気づいて立ち止まる。おかしい、鍵はちゃんとかけてきたはずだ。寮の部屋の戸には、すべて鍵がつけられている。もろもろの犯罪を防止するためだ。良く見ると、鍵が壊れて、戸の取っ手にぶら下がっているではないか。

「……ちょっと、やだ」

 マリーは怖くなって、足音を立てずに後ずさる。なかを確認したいが、ひとりでは恐ろしい。

 とりあえず、クリスを探して来よう。もし彼が、どこかに出かけていて、部屋にいなければ帰ってくるまで待っていよう。そう決めて、マリーはクリスの部屋へと急いだ。

 幸い、クリスは部屋にいた。聞き取りにくい声で、なにごとか言いながら出てきた彼は、やたらと酒臭い。ラウンジでの酒宴に加わっていたのだろう。

 マリーはクリスを、ほとんど無理やり引っぱって部屋へと戻った。

「考えすぎだよ。だいたい、侵入者がいたとしても、もういなくなってるって」

 ものすごく迷惑そうに目をこすりながら、クリスはあっさりと部屋の戸を開けた。

 マリーは彼の背中ごしに部屋の中をのぞきこむ。

「だ、誰かいたりしない? 荒らされてたりは……」

「どこもなにも落ちてないし、動いてもずれてもないよ」

 不機嫌な声で、クリスはさっさと部屋の中に入ると、ある一点を見つめてから、振り返る。

「……侵入者ってさ、彼のことなんじゃないの? 君の最高傑作のさ」

 半分寝ているような顔で、クリスはベッドを指差した。

 マリーはクリスの言葉に仰天し、あわてて部屋の中に入った。彼の言ったとおり、ベッドに横になっていたのはハウエルズだった。眠っているのだろうか。悪魔に睡眠が必要だなどとは知らなかったが、とにもかくにもほっとした。

「ああ、もう、心配して損したじゃない。

 ねえ、ちょっと、起きてよ、なんでここにいるの?」

 マリーはため息まじりに言って、寝ているハウエルズの顔を二、三回、軽く叩いた。ちいさなうめき声があがり、ハウエルズが目を開ける。しばらくはぼんやりとしていたが、マリーの存在に気づくと、力なく腕を上げ、何か言おうと口をぱくつかせる。

 マリーはかすかに異変を感じとり、彼の全身をじっくりと見た。やがて、異変の正体を知ると、血の気がひいた。

「なに、これ……どうしてこんな」

 ハウエルズの腕や足には、まるで細長い焼きごてを当てたような、赤いあとが無数についていた。それらすべてが、古い文字のかたちをしており、ツタがからみつくように、全身をめぐっている。

「ああ、やっと引っかかったんだ」

 すると、背後から明るい、どこか面白がっているような声がした。

 マリーは勢いよく振り向いて、探るような目つきでクリスをにらむ。ひっかかった、とは、いったいどういう意味なのか。

「あれ、教授に聞いてないの? 僕ら協力して、少し前だけど、学院のいろんなところに、対悪魔用の罠をしかけたんだよ。悪魔学科のひとたちに手伝ってもらってさ」

「……どうして?」

 マリーは怒りをこめて問うた。心臓のあたりが痛くなるような怒りがわきあがる。そんなマリーを見て、クリスは意外そうに首をかしげた。

「どうして、なんて聞かれるとは思わなかったな。むしろ君が一番、そいつのことを捕まえたかったんじゃないの?」

 マリーはうつむいた。そう、それに間違いはなかった。

 こんな姿を見るまでは……。



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