寂しさから 3
マリーがクリスとともに部屋へ入ると、すでに全員が揃っていた。
その中に、数少ない女性の錬金術師であり、友人のリサを見つけ、マリーは彼女の側へと歩み寄った。教授はまだ来ていないようだ。
「あら、ようやく来たのね。今日もすごいクマ、大丈夫?」
「平気、と言いたいとこだけど、流石に今日は早く帰って寝るわ」
リサの呆れたような言葉にマリーはそう返した。
実際、鏡など見ていないからひどい状態だと思う。
いつも綺麗なリサとは大違いだ。
リサは良家の子女で、くせのない銀糸のような金色の髪を後頭部ですっきりと編みこみ、露出の少ない青いドレスを着ている。
ただ立っているだけでも気品が感じられるたたずまいが、マリーにはいつも羨ましい。
彼女が大学院へ入ったのは、虚弱な婚約者、ビックの身体を直す方法を調べるためだったのだが、やがて医学よりも錬金術の方に興味がでてしまい、今に至る。
ちなみに婚約者のビックは相変わらず虚弱なものの、リサの怪しい研究の成果か、少しずつ外でのパーティなどにも参加できるようになってきているとか。
「もったいないわね、せっかく美人なのに」
「なにバカなこと言ってるのよ。私なんかせいぜい十人並だわ、綺麗にしたって、そんなに美人になんかならないし、なにしたって男は逃げてくんだからもういいのよ」
それよりも、研究室のアレを完成させたい。
アレが完成しさえすれば、少なくともこの寂しい気持ちだけは解消するだろう。
けれど、先人達が知恵を絞っても完成させることの出来なかった人造人間を、私程度の者が一生懸命学んだ知識を全てつぎこんだ……というだけで、完成させることなど出来るのだろうか?
挑戦してみなければ、結果など分からない。
それでも、やっぱり不安にはなる。
マリーはため息をついた。
「……一回きちんと鏡を見せてあげるわ」
リサが呆れたようにつぶやいた言葉を、マリーは聞き流した。
結局のところ、外見が問題ではないのだ。
マリーが相手にされないのは、きっと内面の問題だろう。一般的にイメージされる女性と比べると、マリーは利発すぎだし、言葉づかいも男みたいに強いから、怖がられているのは分かっている。そしてなにより、求め続ける「夢」が原因なのだと思う。
一般的な男は、女に、自分の「夢」についてきて欲しいと思っているが、女の「夢」に協力しようなんて考えもしないのだ。
諦めればいい話なのは分かっている。
けれど、夢を手放せば自分が自分である意味がなくなってしまうような、そんな気がするから。だから、このままでいい。マリーはいつもそう結論付けてしまう。
それ以上考えても、辛いだけだから。
だから、男はいらないなんて強がってみたりする。
それでも、やっぱり寂しいものは寂しい。
だからこそあんな思いつきにすがるようにして、アレを作ってしまったのだ。
そんなことを考えていると、教授が教授室の扉を開けて出てきた。
ワイアー教授は、腹の出た恰幅のいい身体を難儀そうに移動させながら、待っていた面々を見渡した。
「待たせてすまない。
紹介しよう、以前勤めていたオットー君の後を引き継ぐ、ハースト君だ」
教授が手招きをすると、その男性はやたら背の高い身体をすぼめるように、うっそりと姿を現した。
マリーは、その顔を見て絶句した。
……そんな馬鹿な!