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ある女錬金術師の試み  作者:
episode 6
16/58

痛み 4

 まるで嵐が過ぎ去ったあとのように、思考がなかなか戻ってこない。

 開けっ放しの窓から吹き込む風が、ゆったりとカーテンを揺らしているのを眺める。

 その風はひどく冷たくて、身体の芯まで冷やすようだった。 

「何だったのよ……もう」

 唐突に戻ってきた静けさは、今しがたの言い争いをマリーにまざまざと思い起こせる。

「……俺じゃダメ、か」

 額に手を当て、髪をかきあげる。うっすらと汗ばんでいるのが分かった。

 マリーは重い身体を起こそうとテーブルに手をかけ、なんとか立ちあがる。それからふらつく足でベッドに向かい、倒れこんだ。

 うつ伏せに倒れこんだまま、ぼんやりと考える。

 何故、ハウエルズはあんなことを口走ったのだろう?

 再び開いてしまった自分の心の傷から目を反らしたくて、ハウエルズのことを考えた。

「……アミーリア、って誰なのよ」

 女性の名前であることは間違いない。

 もしかしたら、とマリーにある考えが浮かんだ。

 それを弄ぶように、さまざまな事を勝手に想像してみた。

 もしかしたら、あの身体に入り込んだ悪魔は、かつて人のように人に恋してしまったのかもしれない。悪魔に性別があるのかどうか定かではないが、一応名前や言葉づかいからして男だと思う。「アミーリア」とはその恋した女性の名前なのではないだろうか?

 そしてあの様子からすると、彼の思いは叶わなかったのだ。

 悪魔であるハウエルズがいつ生まれたかなど分からないが、少なくともマリー達の何倍も生きていて、寿命らしきものがないのだから(悪魔祓いに消されたり天使に消されたりはするかもしれないが)その「アミーリア」という女性はすでにこの世の人ではないだろう。

「そっか、だとしたら、あいつも色々失ってるのね」

 言ってみて、マリーは違うなと思った。

 そもそものはじめから、マリーはハロルドが好きだったわけではない。恋ではなく、ただ好意だけ抱いていただけだ。友人ですらなかった。

 恋は、そんな生易しい感情ではない。

 だから、マリーは失ってはいないのだ、まだ……思いを伝えていないのだから。

 今になって、ようやく気付いた。

 相手がただただ欲しくてたまらない……気持ちを押し殺すのは本当に辛い。この思いを暴走させることはきっとたやすいのだ。けれど、それでは自己満足に過ぎないし、マリーのプライドも許さない。

『女としては失格だよ』

 マリーの心をずたずたにした言葉が脳内をまわる。

 それでも、アレックスの役に立ちたかった。

 言ってしまえば色々と終わる気がした。

 だから、殺すのだ、忘れるのだこの痛みを……。

 マリーは嘆息してむくり、と起き上がり、そっと酒の瓶に手を伸ばした。



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