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交換された部分で、快感を知るまでの話  作者: 魔杖


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第三章:夢精―無意識との対話

※Pixiv、ハーメルン、ノクターンに投稿しています。

◆目覚めた身体、知らない衝動


 朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。

 潮音郁は、ゆっくりと目を開ける。

 長袖のルームウェアが、寝返りのたびに少しずつずれていたようで、首元が少し肌寒い。

 けれど、それよりも──もっとはっきりとした違和感があった。


「……え?」


 下半身が、じんわりと湿っている。

 郁は、布団をめくる手を止めた。

 まさか、と思った。

 おねしょ──そんなはずはない。

 けれど、感触は確かに“濡れている”ものだった。

 羞恥が、瞬間的に込み上げてくる。

 大人になってから、こんなことは一度もなかった。

 いや、子どもの頃だって、記憶にあるのはほんの数回だけだ。


「……うそ……」


 郁は、そっと布団をめくり、ルームウェアのズボンを確認した。

 濡れているのは、下着のあたりだけ。

 しかも、色も、匂いも、感触も──おねしょとは少し違う。


「これ……違う。おしっこじゃない」


 言葉にした瞬間、背筋がぞくりとした。

 寝ている間に、身体が勝手に反応してしまったらしい。

 それが何なのか、郁にははっきりとはわからなかった。

 けれど、昨日の鳥飼の言葉が、ふと頭をよぎる。


「性的な興奮が処理されていない状態かもしれません」


 鏡の前で聞いたその言葉が、今になって意味を持ち始める。

 郁は、そっとベッドから立ち上がった。

 羞恥と困惑が、胸の奥でせめぎ合っている。

 けれど、放っておくわけにはいかない。

 下着を替え、洗濯機にそっと放り込む。

 誰にも見られていないのに、顔が熱くなる。


「……どうすれば、これ……落ち着くの?」


 誰に向けたわけでもない言葉が、ぽつりと漏れた。

 それは、昨日の続きのようでもあり、今日の始まりのようでもあった。

 郁は、洗面台の鏡に映る自分を見つめた。

 昨日よりも、少しだけ“この身体”に慣れた気がする。

 でも、まだわからないことだらけだ。

 そして、何より──この衝動を、どう扱えばいいのかがわからない。


「……鳥飼くんに、聞いてみようかな」


 その言葉は、助けを求める決意であり、教師としてのプライドを少しだけ脇に置いた瞬間でもあった。



◆誰かに聞いてみたい


 洗濯機の音が、静かな部屋に響いていた。

 郁は、ルームウェアのままキッチンに立ち、湯を沸かしていた。

 湯気が立ち上るのをぼんやりと見つめながら、頭の中はずっと同じ問いを繰り返していた。


「……どうすれば、落ち着くの?」


 身体が勝手に反応する。

 眠っている間に、意識とは関係なく。

 それが“自然なこと”なのかどうかも、今の郁にはわからなかった。

 かつてなら、知っていたはずだった。

 誰かに教える立場だった。

 でも今は、その知識が──鳥飼の中にある。


「……鳥飼くんに、聞いてみようかな」


 その言葉を口にした瞬間、胸の奥がざわついた。

 恥ずかしい。

 でも、それ以上に、知りたい。

 この身体を、ちゃんと扱えるようになりたい。

 湯が沸いた音に気づき、郁はカップに紅茶を注いだ。

 香りが広がる。

 けれど、気持ちは落ち着かない。

 スマートフォンを手に取り、連絡先を開く。

「鳥飼天満」──昨日、名前を聞いて登録したばかりの画面が表示される。

 指が、少しだけ震えた。

 でも、迷っている時間はもういらない。

 郁は、短くメッセージを打った。


>おはよう。少しだけ、相談したいことがあるの。

>放課後、時間ある?


 送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねた。

 けれど、それは不安だけではなかった。

 誰かに頼ること。

 誰かと向き合うこと。

 それが、今の郁にとって──必要な一歩だった。



◆放課後の約束


 授業が終わり、校舎の廊下に夕方の光が差し込んでいた。

 窓の外では、部活動の声が遠くに響いている。

 郁は、研究室の自席でそっとスマートフォンを確認した。


 鳥飼からの返信は、昼休みのうちに届いていた。


>はい、大丈夫です。

>人が来ない場所、どこかありますか? 


 その文面は、簡潔で、けれど気遣いが滲んでいた。

 郁は、少しだけ考えてから、旧校舎の準備室を思い出した。

 今は使われていない。鍵もまだ手元にある。


>旧校舎の準備室なら、誰も来ないと思う。

>放課後、そっちで待ってるね。


 送信してから、心臓がどくんと鳴った。

 “待ってるね”──その言葉が、どこか教師らしくなくて、少しだけ恥ずかしかった。


 郁は、カバンを肩にかけ、研究室を出た。

 廊下を歩くたびに、スラックスの布がわずかに揺れる。

 その下にある“異物”が、存在を主張している気がして、歩き方まで慎重になる。


 旧校舎の扉を開けると、空気が少しひんやりしていた。

 人の気配はない。

 準備室の前まで来て、鍵を差し込む。

 カチリと音がして、扉が開いた。

 中は、古い机と棚が並ぶだけの、静かな空間だった。


 旧校舎の準備室は、夕方の光に包まれていた。

 窓の外では、蝉の声が遠くに響いている。

 郁は、窓際の椅子に腰かけ、そっと息を吐いた。

 スラックスの前は整えてある。

 カバンは足元に置いた。

 けれど、心の中はまだ整っていない。


「……ほんとに、来てくれるかな」


 そう思った瞬間、廊下の足音が近づいてきた。

 郁は、反射的に立ち上がる。

 扉がノックされ、声がした。


「先生、来ました」


 その声に、郁は胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

 羞恥も不安も、まだある。

 でも──誰かが、応えてくれる。


「……入って」



◆交換授業の始まり


 扉が開き、鳥飼が静かに入ってきた。

 私服姿の彼は、少しだけ緊張した面持ちで、けれどどこか落ち着いても見えた。


「ここ、初めて入りました。静かですね」


 郁は、少しだけ笑った。


「昔は、教材の保管に使ってたの。今は誰も来ないから……ちょうどいいと思って」


 鳥飼は頷き、郁の向かいの椅子に腰かけた。

 ふたりの間に、静かな空気が流れる。

 郁は、少しだけ視線を落とした。

 言わなければならないことがある。

 でも、言いたくないことでもある。


「……朝、ちょっと困ったことがあって」


 鳥飼は、黙って聞いていた。

 その沈黙が、郁にはありがたかった。


「寝てる間に……その、濡れてて。最初はおねしょかと思ったけど、違ってて……」


 言葉が途切れる。

 でも、鳥飼はすぐに補ってくれた。


「夢精、ですね。たぶん」


 郁は、顔を伏せた。


「……そういうの、経験したことがないから。どうすればいいのかも、わからなくて」


 鳥飼は、少しだけ考えるように目を伏せたあと、静かに言った。


「先生の身体の一部は、今、僕のだったものです。だから、そういう反応も……自然なことです」


 郁は、そっと頷いた。

 羞恥は消えない。

 でも、鳥飼の言葉が、少しずつ心をほどいていく。


「……じゃあ、教えてもらえる? どうすれば、ちゃんと扱えるようになるのか」


 その言葉は、教師としてのプライドを脇に置いた、素直なお願いだった。

 鳥飼は、少しだけ微笑んだ。


「はい。僕にできることなら、全部」


 ふたりだけの、秘密の授業が始まろうとしていた。



◆最初の授業


 準備室の窓から、夕方の光が差し込んでいた。

 棚の影が長く伸びて、ふたりの間に静かな空気が漂っている。

 郁は、椅子の背にもたれながら、そっと口を開いた。


「……朝のことなんだけど。ああいうのって、普通なの?」


 鳥飼は、少しだけ考えるように目を伏せたあと、静かに頷いた。


「はい。夢精って、眠っている間に身体が自然に反応してしまうことです。誰にでも起こる可能性があります」


 郁は、視線を落としたまま、ぽつりと続けた。


「……どうして、そんなことが起きるの?」


 鳥飼は、少しだけ微笑んだ。


「水道の蛇口から、ずっと細く水が出ているところを想像してください。蛇口の下にコップを置いておくんですが、コップがいっぱいになったらどうなると思いますか」


「……あふれる」


「そうです。あふれちゃったんです。蛇口にはハンドルがありませんし、排水口もありません。だから、コップの中身は放っておくと溜まって、またあふれます」


 郁は、少しだけ目を見開いた。

 その比喩が、思った以上にわかりやすかった。


「……じゃあ、あふれさせないためには?」


「定期的にコップの中身を空にする必要があります。人によって、溜まる速度は違います。僕の場合は、けっこう頻繁に空ける必要がありました」


 郁は、そっと息を吐いた。


「……でも、どうやって空にするのか、わからないの。触るのも怖いし、見たくもないっていうか……」


 鳥飼は、少しだけ表情を柔らかくした。


「無理に触らなくても大丈夫です。まずは、反応したときにどう落ち着かせるかを知ることから始めましょう」


 郁は、静かに頷いた。

 羞恥はまだある。

 でも、誰かが教えてくれるという安心が、少しずつ心をほどいていく。


「……お願いします。教えて」


 それは、教師としての立場を越えた、素直なお願いだった。

 鳥飼は、ゆっくりと口を開いた。


「まず、反応が起きたときは、深呼吸をしてみてください。姿勢を変えるだけでも、少し落ち着くことがあります。座るときは、位置を整えると、布に当たりにくくなります」


「……位置を整えるって、どうやって?」


「布の上からでも大丈夫です。下向きになっていると、座ったときに前に押し出される感じになるので、そっと上向きにしてみてください」


 郁は、鏡の前で鳥飼に教わったことを思い出した。

 あのときの感覚が、今になって少しずつ意味を持ち始めている。


「……それだけで、違うの?」


「はい。それだけでも、だいぶ違います。あと、濡れてしまったときは、すぐに下着を替えてください。ぬるま湯で洗うだけでも、清潔に保てます」


 郁は、少しだけ笑った。


「……なんだか、保健の授業みたいね」


 鳥飼も、少しだけ笑った。


「でも、先生の身体は、今は“初心者”ですから。最初は、保健の授業から始めるのがちょうどいいと思います」


 ふたりの間に、静かな安心感が広がっていた。

 羞恥も不安も、少しずつ言葉に変わっていく──そんな時間だった。



◆衝動との付き合い方


「……落ち着かせる方法は、わかったつもり。でも……」


 郁は、言葉を探すように視線を泳がせた。

 鳥飼は、黙って待っていた。

 その沈黙が、郁にはありがたかった。


「……それでも、どうしても、反応しちゃうときがあるの。授業中とか、電車の中とか……」


 鳥飼は、静かに頷いた。


「あります。僕も、昔はそうでした。何もしてないのに、急に反応することがあって」


 郁は、少しだけ顔を伏せた。


「……恥ずかしい。誰にも見られてないのに、見られてる気がして」


「それは、すごく自然な感覚です。身体が勝手に動くことに、心が追いつかない。でも、それは“慣れてない”だけです」


 郁は、そっと息を吐いた。


「……じゃあ、慣れたら、恥ずかしくなくなる?」


 鳥飼は、少しだけ考えてから、言葉を選ぶように話し始めた。


「たぶん、“恥ずかしさ”は完全には消えないと思います。でも、“扱えるようになる”ことで、怖さは減ります」


「扱えるようになる……」


「はい。たとえば、反応したときに、どう座るか。どう歩くか。どう隠すか。そういう“技術”を覚えていくと、少しずつ安心できるようになります」


 郁は、鏡の前でスラックスの前を整えたときのことを思い出した。

 あのとき、鳥飼の言葉がなければ、何もできなかった。


「……技術、か。なんだか、変な言葉ね」


 鳥飼は、少しだけ笑った。


「でも、先生は今、“初心者”ですから。技術を覚えるのは、自然なことです」


 郁は、少しだけ笑い返した。

 その笑顔は、ほんの少しだけ、昨日よりも柔らかかった。


「……じゃあ、次は何を教えてくれるの?」


 その言葉は、羞恥を越えて、学びへの意志だった。

 鳥飼は、少しだけ姿勢を正した。


「次は、“どうして反応するのか”について、説明しますね。それがわかると、少しだけ安心できると思います」

 ふたりの間に、静かな光が差し込んでいた。

 それは、夕方の光でもあり──新しい理解の始まりでもあった。



◆反応の理由


「どうして、反応するのか──それを知ると、少し安心できると思います」


 鳥飼の言葉に、郁はそっと頷いた。

 椅子の背にもたれながら、視線を床に落とす。

 聞きたい。でも、聞くのが怖い。

 そんな気持ちが、胸の奥でせめぎ合っていた。

 鳥飼は、少しだけ言葉を選ぶようにして話し始めた。


「身体の中には、ずっと一定のリズムで液体を作る場所があります。それは、意識とは関係なく動いていて、止めることはできません」


 郁は、朝の“あふれた”感覚を思い出した。

 あれが、自然なことだったのだと──少しずつ理解し始める。


「その液体は、使われる予定がなくても、作られ続けます。だから、溜まっていく。ある程度まで溜まると、身体が“出そう”とするんです」


「……それが、反応?」


「はい。反応のひとつです。血流が集まって、膨らむ状態になるのは、身体が“準備しようとしている”サインです」


 郁は、少しだけ顔を伏せた。

 “準備”という言葉が、どこか恥ずかしく感じられた。


「でも、準備しても、使う予定なんて……ないのに」


 鳥飼は、静かに笑った。


「そうなんです。予定がなくても、身体は勝手に準備します。だから、反応してしまうこと自体は、止められないんです」


「……じゃあ、どうすればいいの?」


「まずは、反応したことを“悪いこと”だと思わないことです。それは、身体がちゃんと働いている証拠ですから」


 郁は、そっと息を吐いた。

 その言葉が、少しだけ胸の奥を軽くしてくれた。


「それでも、恥ずかしいのは……消えない」


「はい。でも、恥ずかしさは、“知らないこと”から来ることが多いです。知っていけば、少しずつ変わっていきます」


 鳥飼は、机の上に手を置きながら、続けた。


「たとえば、ししおどしって知ってますか?」


「……日本庭園にある、竹の……カコーンって鳴るやつ?」


「そうです。あれも、一定量の水が溜まると、支えきれなくなって倒れて、中の水が出ます。人の身体も、似たような仕組みがあります」


 郁は、少しだけ笑った。


「……それ、さっきのコップの話と似てるね」


「はい。どちらも、“溜まったら出る”という仕組みです。だから、定期的に空にしてあげることが、身体にとっては自然なことなんです」


「……でも、どうやって?」


 鳥飼は、少しだけ言葉を探すようにしてから、静かに言った。


「それは、また次の授業で。今日は、“反応する理由”を知ってもらうところまでにしましょう」


 郁は、そっと頷いた。

 羞恥はまだある。

 でも、知らなかったことを知ることで、少しずつ“怖さ”が減っていく。


「……ありがとう。ほんとに、助かるわ」


 ふたりの間に、静かな光が差し込んでいた。

 それは、夕方の光でもあり──新しい理解の続きでもあった。



◆服を選ぶということ


 帰宅してから、郁はクローゼットの前に立っていた。

 鏡の前で、今日一日の服装を思い返す。

 濃いグレーのスラックス。厚手の布地。

 「隠せる」と思って選んだはずなのに、座るたびに布が張って、歩くたびに揺れて──結局、気になって仕方がなかった。

 鳥飼の言葉が、ふと頭をよぎる。


「位置を整えるだけでも、だいぶ違います」


「締め付けが強いと、逆に気になることもあります」


 郁は、そっとスラックスをハンガーに戻した。

 代わりに手に取ったのは、柔らかい素材のワイドパンツ。

 くすんだベージュで、落ち着いた色味。

 裾が広がっていて、布の揺れが自然に見える。


「……これなら、少しは楽かも」


 トップスは、白のコットンシャツ。

 襟元が少し開いていて、肩のラインがゆるやかに落ちるデザイン。

 カーディガンはやめて、代わりに薄手のグレーのニットを選んだ。

 全体として、柔らかく、締め付けのないコーディネート。

 鏡の前で、そっと姿勢を整える。

 布の張りは、昨日よりも気にならない。

 でも、完全に消えたわけではない。


「……隠すんじゃなくて、扱えるようにする。そういうこと、なのかな」


 郁は、スマートフォンを手に取った。

 鏡越しに、自分の姿を撮ってみる。

 画面に映る自分は、昨日よりも少しだけ柔らかい表情をしていた。


「……これ、鳥飼くんに見せたら、変かな」


 指が、送信ボタンの上で止まる。

 はしゃぎすぎかもしれない。

 でも、確認してもらいたい気持ちも、少しだけある。

 結局、写真は保存だけして、送らなかった。

 でも、画面に映る自分を見つめながら、郁はそっと微笑んだ。


「……明日は、これで行こう」


 それは、羞恥を越えて、少しだけ前に進もうとする意志だった。

 画面の中の自分は、まだ“先生”ではなかった。

 でも、“学ぶ人”として、少しだけ前に進んでいた。

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