アブラゼミの年賀状
これは「今はまだ冬の風の木枯らし」の女子高生2人の、年が明けてからの話です。この2人の連載版も思い付いてはいるので、気が向いたら、シリーズ化しておきます。
白い雪が舞う。真っ白な雪は、私の体温に当てられて透明な水に変わっていく。ほうっと吐き出した真っ白な息も、ふわふわ漂ってとけていく。
「新年早々雪かあ」
隣を歩いている結乃が、鼻先までマフラーに埋めて呟く。
今、私達は初詣に来ている。地元では有名な神社だからか、昼を回った今も、境内は人で溢れている。
「史花は何をお願いするの?」
「言ったら叶わないから内緒」
「えー、残念」
「そう言う結乃は?」
「私も内緒」
「そ」
お参りだけして、私達は神社を出る。神社から離れて細い道に出ると、さっきまでの空気とは真逆の閑散とした空気に包まれる。
「年賀状、届いたよ」
「よかった。史花のも来たよ。ほら」
「何で持ってきてるの」
「見せてあげようと思って」
「私が書いたのを?」
結乃は時々予想できないことをする。行動も、話す内容も。そして年賀状に描く絵も。
「何で蝉だったの?」
「見た?かわいく書けてたでしょ」
「かわいかったけど。普通は干支じゃない?何で蝉?」
結乃から私に届いた年賀状に書かれていたのは、毎年書かれている文字と、何故か蝉だった。「アブラゼミだよ」と言っているけど、正直種類なんてどうでもいい。
「んー、今の私達って蝉みたいじゃない?」
「へえ?」
「蝉ってさ、幼虫の時は数年土の中で暮らすんだって。でもいざ地上に出てきたら、1か月くらいしか生きられないじゃん」
「1週間じゃないの?」
「環境によってはひと月生きるらしいよ」
「へえ」
「でさ、私は今が一番楽しいから、地上にいるの。でもこの楽しい時間は、すぐに終わりが来てしまう。そう思ったら、蝉と似ている気がしてきたの」
「なるほど」
「今を大事に生きようって話」
そこまで説明して、結乃は満足したらしい。帰ってからお雑煮を食べるとか、炬燵でダラダラするとか、なんでもないことを話している。
「さっきの事だけどさ」
「ん?」
「蝉の話。地上に出てきてからも楽しいかもしれないけど、案外土の中でも楽しんでいるかもよ」
「楽しいのかなあ」
「分からないけど、私は今だけが楽しいってわけでもないよ。確かに今が一番だけど、それは私がこれまであんたと一緒にいたからなんだよ」
「つまり、私達は今も土の中かもってこと?」
「かもね」
これからもっと楽しいことが待っているかもしれない。今が楽しいからって、それが地上だとも限らない。
「私は、これから先、もっとあんたと楽しく過ごせる、地上に出られる日が来るって信じてるよ」
年賀状がテーマなのに、蝉の話になってしまった‥‥‥何故だ?




