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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
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第4章 パート4:同居の決断とリョウの現状

その夜、リョウはフユコを自分の部屋に呼んだ。


と言っても、たいした準備をしたわけではない。

散らかった作業机の上をどかし、床に転がっていた工具を壁際に寄せただけだ。


部屋は狭い。

魔道具の設計図、分解途中の装置、使い古した参考書。

生活と仕事の境目が曖昧な、いかにも“修業中の魔道具師”の部屋だった。


「……狭いけど」


リョウが言うと、フユコは部屋を見回して肩をすくめる。


「盗賊のアジトよりマシ」


即答だった。


思わず、リョウは吹き出しそうになるのを堪える。


「基準が低すぎるだろ」


「一人でいるよりは、温かい」


軽口。

いつものフユコだ。


だが、その言葉の裏にあるものを、リョウは聞き逃さなかった。


ランプの光が、フユコの横顔を照らす。

昼間の奔放さとは違い、どこか緊張が残っている。


リョウは少し間を置いてから、口を開いた。


「……当面、お前、ここに来い」


自分でも驚くほど、言葉は自然に出た。


フユコが瞬きをする。


「ん?」


「同居だ。部屋は狭いけど……寝る場所くらいは作れる」


フユコは数秒、黙ったままだった。

からかうでも、すぐに拒否するでもない。


「……なんで?」


その問いは、思ったよりも真剣だった。


リョウは視線を逸らし、机の上の設計図を見る。


「……危ないこと、させたくない」


それだけ言うと、喉が詰まった。


言い訳を並べることはできた。

生活が安定してきたこと。

自分も余裕が出てきたこと。


だが、核心はそこじゃない。


「俺が、責任持つ」


短く、そう言った。


フユコはしばらく黙っていたが、やがて肩をすくめる。


「別にいいけど」


いつもの軽い調子。


「どうせ、家賃払うほど稼げてないし」


だが、その瞬間、目の奥にほんの一瞬だけ、安堵の色が浮かんだのを、リョウは見逃さなかった。


「……ご飯は?」


「自分で作れ」


「ちぇ」


そのやり取りに、部屋の空気が少しだけ和らぐ。


リョウは棚の奥から、布を取り出した。


「とりあえず、これ敷け。床よりはマシだ」


「ありがと…」


素直な礼が、少しだけ照れくさい。


フユコが布を広げる間、リョウは作業机に戻る。


そこには、最近完成させた魔道具――冷却箱の試作品が置かれていた。


木箱の内側に、簡易的な冷却術式を刻んだものだ。

氷魔法ほどの威力はないが、内部を一定温度に保てる。


「それ、なに?」


フユコが覗き込む。


「冷蔵庫」


「……なにそれ」


「食べ物を冷やして保存する道具」


「魔法で?」


「魔法と構造で」


フユコは目を丸くした。


「それ、売れるの?」


「……たぶん」


実際、もう兆しはあった。


この前、修理依頼で訪れた貴族の屋敷で、偶然この試作品を見せた。

すると相手の目が変わった。


「夏場の保存に使える」

「食中毒が減る」

「厨房で重宝する」


口コミは、ゆっくりだが確実に広がっている。


「……少しずつだけど、まっとうに稼げるようになってきた」


リョウは、自分に言い聞かせるように呟いた。


フユコは腕を組んで、感心したように頷く。


「へえ。やるじゃん」


「だから……墓掘りじゃなくて、違う仕事見つけるんだ!とびきり自分に合ったやつをな…」


その言葉に、フユコは一瞬だけ、視線を伏せた。


「……わかってる」


短い返事。


完全な納得ではない。

だが、拒絶でもない。


それでいい、とリョウは思った。


一気に変えようとするな。

少しずつでいい。


夜が更けていく。


ランプの下で、フユコは布の上に寝転び、持ってきたリンゴをかじり始めた。


「ねえ」


「なんだ」


「ここ、静かだね」


「騒がしいのが好きか?」


「どっちも」


そう言って、笑う。


その姿は、墓を掘る少女とは思えないほど、穏やかだった。


だがリョウの胸には、消えない影がある。


――もしここで声をかけなければ彼女は、夜に墓を掘っていた。


その事実を、忘れてはいけない。


ランプを消す。


部屋は闇に包まれるが、完全な暗闇ではない。

窓から差し込む月明かりが、二人の影をぼんやりと映している。


「……おやすみ」


フユコが先に言った。


「ああ」


短く返す。


眠りに落ちるまで、リョウはしばらく天井を見つめていた。


この部屋に、もう一人分の命がある。


それは重みであり、

同時に、希望でもあった。


王都の夜は静かだ。


だがその地下では、まだ罪の匂いが漂っている。


リョウは目を閉じながら、心に誓った。


――この小さな灯りだけは、消させない。


それが、どんな困難を招こうとも。

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