表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
94/118

第4章 パート2:フユコの変化とリョウの疑念

王都の昼下がりは、いつも騒がしい。


露店の呼び声、馬車の軋む音、パンの焼ける匂い。

石畳の通りを歩くだけで、耳も鼻も忙しくなる。


そんな喧騒の中を、リョウは工具袋を肩にかけて歩いていた。


「……また壊れてるってさ」


魔道具修理の依頼を終えた帰りだ。

報酬は少ないが、安定はしている。

少なくとも、盗賊だった頃のように命を張る仕事ではない。


――そのはずだった。


「リョウー!」


背後から、やけに元気な声が飛んでくる。


振り返ると、フユコが手を振っていた。

両手には、紙袋と串と包み紙。

どう見ても食べ物だらけである。


「……お前、また買い食いか?」


「えへへ。今日は安かったんだよ」


そう言って、串に刺さった肉をひと口。

じゅわっと脂がはねる。


「ほら、食べる?」


「いらん。昼はもう食った」


「そっか。じゃあ私が食べる」


遠慮の欠片もない。


リョウは歩きながら、横目で彼女を観察した。


以前のフユコは、こんなふうに無駄遣いはしなかった。

王都に来たばかりの頃は、銅貨一枚を握りしめて露店の前で立ち止まり、結局何も買わずに去るような子だった。


それが今はどうだ。


焼き肉串。

果物を練り込んだ甘い菓子。

さらに紙袋の中からは、白い蒸しパンのようなものまで覗いている。


「……金、どうした」


リョウは歩調を緩めず、低く言った。


フユコは一瞬だけ、視線を逸らした。


「……別に」


「別に、で済む額じゃねぇだろ」


「うーん……」


彼女は歯切れ悪く笑い、頬を掻いた。


「ちゃんと働いてるし?」


「働いてるって、お前……最近そんな仕事してたか?」


フユコは一拍置いた。


その沈黙が、リョウの胸をざわつかせる。


「……ねえ、リョウ」


彼女は急に立ち止まった。


「王都ってさ、いいよね」


「は?」


「仕事あるし、食べ物あるし、寝るとこあるし」


笑顔だが、どこか作ったような声。


「生きるの、楽だよ」


その言葉に、リョウは思わず眉をひそめた。


「……お前、何か隠してるだろ」


フユコは少しだけ視線を伏せる。


通りを行き交う人々の声が、急に遠くなった気がした。


「……墓、掘ったの」


一瞬、意味が理解できなかった。


「……は?」


「だから。墓」


彼女は指で、地面を指す仕草をした。


「死体、掘り出した。エルネアの助手の人に渡してる」


世界が、ほんの一拍遅れて音を立てて崩れた。


「……は?」


声がひっくり返る。


「お、お前、何言って――」


「本当だよ。ちゃんとした仕事。報酬も出る」


「報酬……?」


「金貨、もらえる」


その言い方はあまりにも淡々としていた。


まるで、薪を運んだとか、皿を洗ったとか、そんな日常の延長のように。


「……ふざけるな」


喉の奥がひりついた。


「墓荒らしだぞ。それ」


「うん」


「犯罪だ」


「?犯罪じゃないよ…」


「…死体だぞ! 人が死んで……」


「生きてたら大変でしょ?」


あまりに軽い返答に、言葉を失う。


フユコは首をかしげた。


「生きてる人を殺してるわけじゃないよ。もう終わった人」


その言い方が、あまりにも冷たくて。


リョウは思わず腕を掴んだ。


「……やめろ」


「痛い」


「そんなこと、するな」


彼女は少し困った顔をして、視線を逸らす。


「でもさ……」


声が、ほんの少しだけ揺れた。


「お金、いるじゃん」


リョウは何も言えなかった。


彼女の頭に浮かぶのは、粗末な宿で寒さに震えていた夜。

空腹で眠れなかった日々。


「生きるためにやってるだけだよ」


その言葉は、刃物より鋭かった。


――それは、かつての自分の言葉だった。


盗賊だった頃。

奪わなければ、生きられなかった頃。


「……誰がやらせてる」


「エルネアの助手。ハービーって人」


その名前を聞いた瞬間、リョウの背筋に冷たいものが走る。


エルネア。


あの、治癒魔法の研究者。


墓荒らし。


頭の中で、点と点が不吉な線を描き始める。


「……他にも、やってるのか」


「何回か。もう慣れた」


「慣れるな!」


思わず声を荒げてしまい、通行人がちらりとこちらを見る。


フユコは肩をすくめた。


「リョウ、怒らないでよ。私、ちゃんと生きてるだけ」


その言葉が、胸に突き刺さる。


正しい。

彼女は生きるためにやっている。


でも――。




王都の喧騒は変わらず続いているのに、二人の周囲だけが静まり返ったようだった。


フユコは最後に、もう一度だけ肉串をかじった。


「ねえ、リョウ」


「なんだ」


「私さ……悪いこと、してる?」


リョウは答えられなかった。


代わりに、遠くで鳴る鐘の音が、ゆっくりと午後を刻んでいた。


その音は、まるで――

これから覚悟を決めるリョウの心根を表している様だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ