表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
80/118

第1章 パート4:リョウの日常

王都グランフェリアの西区――

そこには、街の人間なら誰もが一度は訪れたことがある古びた魔道具店がある。

木製の看板には剥げた金文字で《魔道具工房エイル》と書かれている。

その店の奥で、今日もリョウは黙々と作業台に向かっていた。


「……えっと、この魔力の流路はこっちじゃない。多分、制御回路が脆弱なんだ」


彼は分解された魔道ランプを前に、細い銅線と魔力導管を手に取りながら、呟く。

工具は一通り揃っているが、その手つきはまだぎこちない。

それでも、集中しているときのリョウの目は真剣だった。


店主のエイル老人――

白髪で背が曲がり、しかし眼光鋭い職人気質――が、

ふと彼に近づき、手元を覗き込む。


「……ふむ。流路の補強、考えたか?」


「え? いや、そこまでは……」


エイルはニヤリと笑い、

横から素早く一本の細い魔力糸を差し込み、導管に絡めた。


すると、魔道ランプは――

ポッ、と柔らかい光を灯した。


「ほら、こうじゃ。魔力は水と同じよ。漏れぬよう、圧が偏らぬよう、道を整えることだ」


リョウはその様子を目を輝かせて見つめ、

思わず小さく息を呑んだ。


「……すげ……」


「お主も近いところまでは来ておる。だがな、魔道具を扱う者は手元より心を使え。

魔力という理屈の向こうに“意志”がある。それを感じろ」


エイルはそう言い残すと、

奥の帳場へ戻っていった。


***


作業場に一人残されたリョウは、

魔道ランプを見つめながら小さく呟く。


「意志……ね。俺にもできるのかな、そんなの」


彼は最近、自分に「魔力」があることを知った。

それはある晩、魔道具の作業をしている最中、

ふと意識した方向に光が流れるような、不思議な感覚を得たことがきっかけだった。


驚いて掌を見つめると、

そこには、微細な光の粒が浮かび上がっていた。


魔力――

この世界に来て二年、ずっと自分には関係ないと思っていたもの。


だが、それを見たエルネアは

ほんの一瞬、深い驚きの表情を浮かべた。


「リョウ……あなた、魔力があるのね」


「あるって……普通は誰でも持ってるんじゃないの?」


「ええ、持ってはいるわ。けれど“目視できるほど濃い魔力”を持っている人間は多くないの」


だが――

ここからが問題だった。


リョウは魔力を「持っている」ものの――

それがどの魔法系統に適性があるかが、まるで分からないのだ。


火、水、風、土――

生活魔法系統から派生魔法まで、

試しても試しても反応しない。


火の初級魔法――

小炎フレア


リョウは集中し、指先に意識を込める。


「……来い……!」


しかし、指先に熱は生まれない。


逆に――


【魔力漏れ】


と言われる、魔力の泡のようなものが無秩序に弾け、

店のランプや道具に影響を及ぼしてしまう。


さらに――

風魔法を試した際は、制御できない魔力が散乱し、

作業場の書類が全部舞い上がったこともある。


「おいッ! やめんか! 店が砂嵐じゃ!」

エイルに怒鳴られたのがつい先週だ。


***


なぜ、リョウは魔法適性が不明なのか――

その理由は、この世界の魔法教育制度にある。


魔法は基本的に――

「家系で受け継がれるもの」

「師弟関係で伝授されるもの」


魔力の流儀は流派によって異なり、

それは血筋か、特定の師匠からしか伝わらない。


リョウは――

この世界に「家族」はいない。

保護者も後ろ盾もない。

魔法学校への入学資格もない。


魔法学校は未成年(15歳以下)が主対象で、

成人からの入学は例外的措置で、金とコネが必要だった。


つまり――


リョウは独学しか道がなかった。


***


夜。

魔道具店の灯が落ちた後――

リョウは密かに自室へ戻り、

机の引き出しから、一冊の分厚いノートを取り出す。


そこには――

魔法実験記録がぎっしり詰まっていた。


・火魔法は非適性か?起炎反応が発生せず

・水魔法 水滴凝固のみ発生?

・風魔法 微風発生するも制御不能

・土魔法 反応なし

・回復魔法 魔力安定する瞬間あり?

・魔力放出(未定義)?この線が可能性?


日付入りの記録には、

彼の努力が刻まれていた。


彼はそのノートにさらに書き加える。


「魔力そのものを操作する感覚は強い。

属性魔法ではなく、魔力の制御、干渉……

魔道具との相性――

もしかして俺は、“魔法使い”じゃなくて、“魔術師”系統……?」


リョウはそれを考えた瞬間、電撃に打たれたように顔を上げる。


この世界では比較的多くの人が使えるいわゆる属性魔法と、それ以外の魔法に分類される。

魔術師――

それは、属性魔法を操る魔法使いとは異なる系統。


魔力そのものを理解し、

構造を読み、

不可視の原理に干渉する存在。

そのほとんどが一子相伝の固有の魔法を使う。


「もしかして……俺の適性って……」


そこまで考えて、

リョウは自嘲気味に笑った。


「なんだよ、属性魔法使いだったらなんとかなりそうだったのに……。

格好いいけど……役に立つのかな?」


ひとしきり笑い終えた後――

彼は手のひらに意識を集めた。


そっと、掌が淡く光る。


属性の色を持たない光。

純粋な魔力の輝き。


それを見つめながら――

リョウは静かに呟く。


「……何者になれるんだろうな、俺は」


***


まだ、答えは見つからない。

だが――

その努力と試行錯誤は、

確実にリョウを「何者か」へと導き始めていた。


そして、その背後に――

彼の魔力が、誰も知らぬ可能性を秘めていることを、

まだ誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ