表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
79/121

第1章 パート3:クラウスの日常

朝の市場が活気づく時間帯より少し遅く、王都グランフェリアの南門付近。

鎧の金属がぶつかる、清潔で乾いた音が響く。

それは街の安心を象徴する音でもあった。


クラウスは銀色の軽鎧に袖を通し、背筋を伸ばし、門番として立っている。

背は高く、引き締まった体躯。

まだ年齢は若いが、その佇まいには自信と責任感がにじみ出ている。

彼は今日も抜かりなく、入城する商人や旅人に目を配っている。


だが、彼が今こうして正式に騎士団の制服を着ている――

それは偶然でも、努力だけの結果でもない。

一年前の建国祭の事件において、彼が真っ先に動き、

民を守り、恐怖に震える子どもを助けたこと。

そして、敵に臆することなく剣を構え、

仲間を、王都を守り抜こうとした勇気――

それを王国は見逃さなかった。


「クラウス、交代はまだか?」

先輩衛兵が軽く声をかける。


「あと十分で交代です。記録簿はまとめてあります」

クラウスは短く答え、

帳面と入城者の確認リストを見せる。


「仕事が早いな。……手抜きはしてないよな?」

先輩は冗談めかして笑う。


クラウスもふっと口端を緩めた。

「抜かりはありません。……街は俺が守りますから」


その言葉に先輩は一瞬驚き、そして誇らしげにクラウスの肩を軽く叩いた。

「その台詞、騎士らしくなったな。胸張って言えるようになったじゃないか」


そう――クラウス自身が1年前と比べて大きく変わったのだ。


かつて彼は、貴族から没落して盗賊に落ちた過去がある。

そのつらく過酷な日々が、彼の誇りと自尊心を砕き、彼の人生に影を落としていた。


しかし今は違う。

入城者に会釈し、子どもに手を振られれば微笑んで応じ、

不安げな旅人には柔らかく声をかける。


「王都は安全です。安心して滞在してください」


その一つ一つの言動が、クラウスを変えた。


街の巡回に出るとき――

彼はただ通りを歩くのではなく、

周囲の空気を読むようになった。


果物売りの声に紛れて客の怒鳴り声が聞こえればすぐに近づき、

盗難騒ぎが起これば足跡と視線の動きで不審人物を追い、

なんでもない日常の中に潜む“異常の兆し”を素早く察知する。


「衛兵さん、また来てくれたんだね」

路地裏で野菜を売る娘が声をかける。


「ああ、最近ここで偽金が出回ってるって報告があった」

クラウスは真剣な顔で答える。


その顔に、娘は安心する。

「あなたが巡回してくれてると、なんか安心するんだよね」


クラウスは一瞬照れくさそうに首をかいた。

「褒めても何も出ないぞ」


「ふふん、その照れ顔が見られれば充分だよ」


そう言われると、クラウスはつい苦笑する。

昔はこういう軽口にイラ立った時期もあったが、

今はもうそんな未熟さは残っていない。


◆ 


時折、彼はモンブランの屋台にも立ち寄る。

ちょうど昼休憩の時間帯だった。


「クラウス、いつものね!」

モンブランが明るい声で注文を先取りする。


「まだ何も言ってないぞ?」

クラウスは苦笑しつつも席に着く。


「今日はパンを少し厚めにしてるの。歩き回る巡回には向いてるよ」

彼女はパンと具だくさんスープを運びながら言う。


クラウスは感心したようにパンをかじり、

小さく唸った。


「うまい……毎回進化してないか?」


「ふふん! 私が毎日鍋と対話してる成果だよ」

モンブランは笑顔満開で胸を張る。


そういうやりとりを眺めて、

周囲の客たちもつい笑ってしまう。

クラウスにとってモンブランとの時間は、

束の間の「戦いから離れた時間」でもあった。


◆ 


騎士団に戻ると、

上官が書類を片手に近寄ってきた。


「クラウス、南区での件――よくやったな。商人が盗難被害を受けずに済んだのはお前の判断が早かったからだ」


クラウスは背筋を伸ばす。

「ありがとうございます。しかし、自分にできることをしただけです」


「その謙虚さもいいが、もっと誇っていいぞ」

上官は笑う。

「王国はお前のような騎士を必要としている」


クラウスは静かに息を吸い、

その言葉を胸に刻む。


――自分は、守る側の人間になったのだ。


◆ 


夜の巡回。

灯籠の明かりだけが通りを照らし、

遠くで酒場の笑い声が漏れる。


クラウスはその中を静かに歩く。


ふと、思い出す。

一年前――

剣しかなかった自分。

無鉄砲に突っ込んでいた自分。

正義の形を失いかけていた自分。


今の自分はもう違う。

人を守ることの意味。

街を守ることの責任。

仲間を支えることの価値。


それらを理解し始めた。

自分はただの戦士ではない。


――王都の盾となる者。


それを胸に抱きながら、

クラウスは夜の通りを歩き続ける。


そして、王都の夜に響く

鎧の音が――

王都の安心そのものになっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ