表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
78/118

第1章 パート2:モンブランのお店大繁盛

朝の柔らかい日差しが差し込む頃、王都グランフェリアの中央通り、その一本裏路地に――一年前はただの空地だった場所に、今や人だかりができる小さなお店がある。

屋根には手描きの文字で「モンブラン亭」と書かれており、木の看板からはほのぼのとした雰囲気が漂っていた。


モンブランは、茶色の髪をゆるくまとめ、白いエプロンを結んでいる。その仕草はどこか柔らかく、温かい。

彼女が鍋をかき混ぜるたび、ふわりと湯気が立ち上る。


パンの香ばしい香り。

煮込んだ野菜の甘い湯気。

香草の爽やかな香り。


グランフェリアの朝に、この香りを求めて通ってくる者がもう数十人はいる。

朝食は家で済ませる者が多いこの国で、わざわざ並んででも食べに来る人がいる。

それは――王都の風景の一部になった証拠だ。


「モンブラン、今日のスープは何だい?」

常連客の老紳士が声をかける。軍務を引退した元騎士だ。


モンブランは笑顔で答える。

「今日はね、カブと鶏とね、ちょっと秘密の調味料! 長年の勘で味が決まったんだよ〜」


「秘密って言われると余計に気になるな」

老紳士は眉を上げる。


すると、並んでいた若い娘が割り込むように言った。

「それ、たぶん昨日の試作品ですよ! モンブランさん、夜遅くまで煮込んでたんですから!」


「ちょ、ちょっと〜! それ言わないでよ〜!」

モンブランは慌てて手を振り、頬を赤らめる。


「ふふ、努力の味ってわけか。そりゃ食わないわけにはいかん」

老紳士は笑い、パンとスープの朝セットを受け取る。


その横で、モンブランはキビキビと動く。

大きな木の杓文字でスープをよそい、パンを軽く炙る。

動きは軽やかで、そして丁寧。

見ているだけで気持ちいいほど手慣れている。


一年前――

彼女がまだただの料理好きな少女で、仲間と野営したり、屋台で売っていた時とは違う。

今は“プロ”として、王都の胃袋を掴んでいる。


「ねぇモンブランさん、今日のパン、昨日より甘くない?」

別の常連客が尋ねる。


「気づいた? 小麦粉の配分を少し変えたの。朝に食べるなら、もうちょっと軽い方がいいかなって!」

モンブランは胸を張って言う。


「ほう……君の方がよっぽどパン職人じゃないか」

客が感嘆したように息を吐く。


「えへへ〜、もっと褒めて?」

冗談っぽく言うが、その目は素直に喜んでいた。


通りの向こうから、衛兵たちが歩いてくる。

鎧が軽く鳴る音が響く。


「お、モンブラン、今日も頼むぞ!」

「あいよ〜! 塩気控えめ、具だくさんね!」

彼女は衛兵一人一人の好みを覚えている。


ある者はパンを厚切り、

ある者はスープを濃い目、

ある者は胡椒を多め。

その理由を尋ねられたことがある。


「だってその方が嬉しいでしょ? 私、みんなの“朝の元気”を作りたいんだ」


その言葉に、常連たちはますます彼女を好きになった。


周囲の会話は明るく、笑い声も絶えない。

老紳士が冗談を言うと、モンブランは肩を震わせて笑う。

その笑顔を見て、客たちも笑う。


屋台の周りだけ、季節が春に戻ったみたいだった。


リョウも時折ここに顔を出す。

ある日、彼はモンブランの苦労を労いながら言った。


「一年でここまでやるなんて、本当にすごいよ。

 最初は屋台の組み立ても僕とクラウスが手伝ったのに」


モンブランは両手を合わせる。

「うん、あの時のこと、ちゃんと覚えてる。

 でも今は一人でもできるんだよ? えっへん!」


やっぱり彼女の強さは、明るさだ。

努力を努力のままで終わらせず、

それを自然な温もりに変えて、料理に乗せて提供している。


その姿は、ただの料理人ではない――

王都の人々の日常を照らす小さな灯のようだった。


通りすがりの人々の足が止まる。

空腹でなくても、つい香りに惹かれてしまう。

甘いパンの香ばしさ。

優しく煮込まれたスープの湯気。

そして――モンブランという少女の笑顔。


お店の日よけ布が風になびく。

それは、彼女のこれからを祝福する旗のようにも見えた。


そして確かに、ここには一つの未来が根付いている。

それは小さくて、温かくて――

けれど、確かに王都の日常を変える可能性を秘めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ