表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
76/118

王都グランフェリア編 第19章:パート2「建国祭の灯の下で」

グランフェリアの王都を包む空が、淡い金色から深い藍へと移り変わっていく。

 三日間にわたる建国祭の最終日。大通りには無数の提灯が灯り、露店の列が果てしなく続いていた。

 焼き菓子の甘い香り、音楽隊の軽快な笛の音、子供たちの笑い声——。

 それらが混じり合い、王都はまるで夢の中のように賑わっていた。


 だが、その喧騒の片隅で、リョウは浮かない顔をしていた。

 彼は露店の一角で、魔道具の出店を任されている。

 卓上に並ぶのは小型の照明石や風よけの護符、リョウが直した欠陥品の改良版だ。

 それらは人々の目を引き、そこそこ売れていたが、リョウの胸には重たい靄が残っていた。


 ――あれから、もう二週間か。


 王墓の広間で見た、血の海。

 瞳を失った子供たちの無表情。

 そして、自分の無力さ。


 リョウは机の上の硬貨を無意識に指先で転がしながら、小さく呟いた。

 「……とはいえお宝も名誉も手に入らず、クーデターを防いだ英雄にもなれず店番か。」


 軽口のつもりだったが、声には笑いがなかった。

 人波の向こうで響く祭り囃子が、遠くの世界の音のように感じられる。


 ふと、リョウの視界に赤いリボンが揺れた。

 見覚えのある髪色と、明るい声。

 「リョウー! 売れてるー? ちゃんと店番してるー?」

 モンブランが駆け寄ってきた。その隣には、小さな少年が一人。

 彼の目には、かすかな光が宿っていた。


 モンブランが軽く背中を押すと、少年は照れくさそうに前に出た。

 「ありがとう! お兄ちゃんたちが助けてくれたんだよね!」


 リョウの胸が一瞬、熱くなった。

 どんな言葉も出てこなかった。ただ、自然に笑みがこぼれる。

 「……そうか。元気そうで、よかった。」


 少年は深々と頭を下げ、「また来るね!」と笑って走り去った。

 人混みに紛れていく背中を見つめながら、リョウは息を吐いた。

 「……少なくとも、一人でも笑顔を取り戻せたなら。」

 その声は小さかったが、確かに自分自身に言い聞かせるような響きがあった。


 モンブランが隣で腕を組み、にやりと笑った。

 「ほらね、無駄じゃなかったでしょ。だから、いつまでも沈んでちゃダメなんだって。」


 そう言って、彼女は懐から何かを取り出した。

 拳に収まるほどの、鈍い金の光。

 「遺跡でね、モンスターがこれの欠片をくわえてたの。たぶん黄金の扉のかけらだよ。」


 リョウは目を見張る。「おい、まさかそれ……!」

 モンブランはにこっと笑って、金の塊を差し出した。

 「施設の子供たちに使って。何年分かの支援費にはなるでしょ?」


 リョウは唖然としたまま、言葉を失った。

 「お前……それ全部、寄付するつもりか?」

 「もちろん。あの子たち、親にまで売られたんだよ? 今さら欲なんて張れないでしょ。」


 彼女の声は明るかったが、その瞳には深い優しさがあった。

 モンブランはくるりと振り向き、もう一つの金片を見せる。

 「それにね、私はリョウと違ってちゃんとしてるんだよ。」


 リョウが苦笑する。「それは……どういう意味だ。」

 「一発逆転の屋台が大繁盛だよ!」


 モンブランは胸を張った。

 実はその金を使って、彼女はお祭りで屋台を出していたらしい。

 「金粉飴モンブランスペシャル! って出したんだけどさ、これが評判を呼んで売れに売れて!」

 「それ………金の原材料費考えてないだろ?」

 「あっ!」

 二人は顔を見合わせて、思わず笑った。


 その笑い声が、夜空へと吸い込まれていく。

 やがて空には花火が上がり、群衆の歓声が響いた。


 ◆


 建国祭の夜が深まるにつれ、灯火が街を包み、風が柔らかくなっていった。

 露店の灯りが反射する石畳の上で、リョウは立ち止まり、空を見上げた。


 「俺たちは……勇者にも、冒険者にもなれなかった。」

 その呟きに応えるように、背後から穏やかな声がした。

 「呆れた。また言ってるのね。」


 振り向けば、エルネアとフユコとランタンを持って立っていた。

 「誰かを救った。――それで十分じゃない? 英雄なんて、疲れるだけよ。」

 フユコもこくりとうなずいている。


 エルネアはそう言って微笑み、店の灯をともした。

 淡い光がリョウの横顔を照らす。

 クラウスとモンブランの笑い声が遠くから聞こえた。


 リョウは静かに頷き、空に咲く花火を見上げた。

 その光は、まるであの遺跡の暗闇を払い、再び道を照らしてくれるようだった。


 ――こうして王都の平穏は戻った。

 だが、リョウたちの胸には、その平穏の脆さと、それを守ろうとする人々の強さが深く刻まれていた。


 そして、彼らの日常(ものがたり)はまだ、静かに続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ