第6章:最後の策略
ギルドを抜ける最後の手段――それは、ギルド幹部との交渉だった。
「証拠は揃っている。これを公開されたくなければ、俺たちの脱退を認めろ」
リョウは静かに、しかし確かな口調で言い放った。会議室には、ギルド幹部たちの緊張が張りつめていた。
提示したのは、禁術の運搬に関わる帳簿、複数人の貴族との裏取引の裏取引の書簡、そして魂を抜き取る禁呪の実験記録。
「確かに取引相手の領主に我々の失態が漏れるのは好ましくない」
「俺たちも拾ってくれたギルド全てを敵に回すつもりはない」
交渉の末、ギルド上層部の中の穏健派が脱退を容認する方向に傾き始めた。
だが――
「黙れぇええええっ!!」
バンッと扉を蹴り破って現れたのは、ギルド過激派の重鎮・ガルム。その後ろには武装した部隊がぞろぞろと現れた。
「裏切り者は粛清あるのみ!!」
剣が抜かれ、魔法がチャージされ、会議室は戦場と化した。
「やるしかないか」
クラウスがすっと剣を構えた。室内の明かりを狙い、手際よくすべて斬り落とす。
「明かりが……っ! 何も見えん!」
薄暗い中で、モンブランが懐から投げ出したのは、夜目の利くモンスターたち。
「チューバ、ムギ、コロネ、行けっ!」
小さな影たちが闇の中を縦横無尽に駆け回り、敵の装備や魔法の集中をかく乱する。
「来るわよ」
エルネアが指を切り、その血で床に描かれた魔法陣が発光を始めた。
「死霊よ……目覚めの時よ」
床から、壁から、あらゆる隙間から骨と腐肉の軍勢が立ち上がる。重騎士の亡霊、双頭犬の屍、かつての盗賊たちの影。
「なんだこの数……!?」
敵は恐慌状態に陥った。視界を奪われ、死霊に囲まれ、隊列は崩壊する。
その中で、リョウはお玉を握りしめた。
「モンブラン、伏せろっ!」
土鍋の蓋で盾を作り、魔法弾を弾く。敵が油断した隙に、お玉をスナップで振り抜き、腰袋に入れていた小石を高速で射出――眉間に命中。
「……戦争映画で見たやつ、意外といけるな」
クラウスは冷静に斬り込み、モンブランはモンスターの支援に専念し、エルネアの死霊たちは圧倒的な数で戦場を制圧していった。
「リョウ! もうちょっと左!」
「そっち!? 当たるかこれ!」
シュンッと飛んだ小石は見事に敵の杖を弾き飛ばし、モンブランのモンスターがとどめを刺した。
「ナイス!」
「こんなお玉芸が役に立つことになるって人生何が起きるか分かんね~なっ……!」
戦いが終わる頃、保守派の大半は逃亡か拘束され、幹部たちは沈黙の中で立ち尽くしていた。
「……これで、自由を得たな」
リョウの言葉に、仲間たちは頷いた。
死霊術の光が消え、モンスターたちが巣に戻り、会議室にはようやく静けさが戻ってきた。
「じゃあ……どうする? 本当に抜けたら、今度はギルドの影響力が少ない王都にでもいく?」
「その前に、ちょっと飯食わせてくれ。お玉使いすぎて手がしびれた」
「じゃあ今日は、お玉記念スープだな」
「嫌な記念だなぁ……」
こうして、リョウたちは“自由”への最後の一夜が終えた。
だが物語は、まだ終わらない。