表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
65/117

王都グランフェリア編 第16章:パート3「機転」

 毒蛇の群れが地を這い、足元を埋め尽くしていた。

 黒紫の鱗が光を反射し、空気中には甘ったるい毒の臭いが漂う。

 リョウたちは狭まる包囲の中、息を殺していた。


「このままじゃ、足を踏み出すこともできねぇ……」

 リョウが短剣を握り直すが、目の前の蛇が牙をむいた。

 その瞬間、エルネアが小声でつぶやく。

「……待って。毒は“生きているもの”にしか効かないの」

 彼女の言葉に、全員の視線が集まる。


「つまり……」とリョウが続けた。

「アンデッドなら、毒にやられねぇってことか!」


 エルネアはうなずき、杖を掲げる。

 淡い光が彼女の掌からあふれ、地面に落ちた兵士たちの影を照らした。

 死体の口がわずかに開き、骨の軋む音とともに立ち上がる。

 次々と起き上がる無言の骸骨たち――かつての敵が、今は盾となって味方を守る。

 彼らは一歩ずつ、毒蛇の群れへと踏み込んでいった。


 蛇たちはアンデッドに噛みつくが、何の効果もない。

 肉の腐った腕に毒が流れ込んでも、反応はなく、逆に蛇が絡みついて動きを封じられていく。

「行け……! お前たちは、私たちの“盾”だ!」

 エルネアの声に応じるように、死者たちは前進した。


 その隙にリョウが仲間に向き直る。

「今のうちに魔女を止める。クラウス、壁の魔導師を頼む!」

「了解だ。だが、あの蛇どもが残ってる限り近づけん!」

 焦る彼らの中で、モンブランがぽんと手を打った。


「待って! 火だよ、火! この子たち、光と音に反応するんだ!」

 彼女の手の中には、傷だらけのスライム――ライリィが光っていた。

 リョウが眉を上げる。「光と音……?」

「そう! スライムは刺激が好きなの! 昔、花火を見せたら、すっごく喜んで――」


 その瞬間、リョウの脳裏にひとつの光景がよぎった。

 腰袋に入れっぱなしだったお祭り用花火。

 ――まさか、ここで使うことになるとは。


「……なるほどな。閃光と爆音で、詠唱を邪魔するってわけか」

 モンブランがうなずく。「やってみよう!」

 クラウスが半ば呆れながらも笑った。「戦場で花火とはな……だが悪くない!」


 リョウは腰の袋から花火を取り出し、火打ち石を構える。

 「エルネア、今のうちにアンデッドを前へ! モンブラン、スライムを――」

「任せて!」


 アンデッドたちが蛇の群れの中へ突っ込み、毒を浴びながらも進む。

 その頭上から、モンブランがスライムを花火に巻き付けて放り投げた。

 火がつく。

 瞬間、轟音と閃光が広間を飲み込んだ。


 耳をつんざく破裂音。

 爆ぜる火花が岩壁に反射し、目が焼けるほどの白光を放つ。

 蛇たちが狂ったようにのたうち、魔女が悲鳴を上げて後ずさった。

 詠唱が途切れ、毒の煙が散っていく。


「今だ――行けぇっ!」

 クラウスが吠えた。

 リョウが疾風のように駆け、短剣を逆手に構える。

 岩の魔導師が防御の詠唱を始めた瞬間、クラウスの剣が斜めに振り下ろされた。

 刃が杖を砕き、リョウの短剣が喉元を貫く。


 老魔導師は血を吐き、崩れ落ちた。


 その光景に動揺した魔女が振り返る。

 だが、すでにエルネアの死霊が背後に回っていた。

 冷たい腕が魔女の足を掴み、骨の指が肌に食い込む。

 モンブランのスライムが跳ね上がり、酸を吐いて彼女の目に叩きつけた。


「きゃあああああっ!」

 女魔術師が悲鳴を上げ、光の奔流が弾ける。

 そして、静寂。


 毒蛇が動きを止め、土壁の魔力が完全に消えた。

 瓦礫と煙の中、リョウたちは肩で息をしていた。


 クラウスが剣を下ろし、笑みをこぼす。

「……やるじゃないか。即席の作戦にしちゃ、上出来だ」

 モンブランが息を切らしながらも、にっこりと笑う。

「スライムたちのおかげだよ……」

 その言葉に、エルネアが静かにうなずいた。


 リョウは短剣を納め、全員の顔を見渡す。

 埃まみれの頬、血の滲む腕、それでも誰もが笑っていた。

「……これで厄介な魔法使いはいなくなったな」

「ここまで来たんだ。最後までやり遂げよう」クラウスの声が低く響く。


 広間の奥、祭壇の影で誰かがゆっくりと立ち上がった。

 仮面の影から鈍く光る赤い宝石――血を吸う魔道具使いが、無言で杖を掲げた。


 リョウたちは同時に構えを取り直す。

 勝利の余韻が、次の戦いの予感に飲み込まれていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ