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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第16章:パート2「絆」

リョウの短剣が兵士の鎧の隙間を裂いた瞬間、足元が震えるような低音が響いた。

 大地がうねり、床の石が盛り上がる。まるで生き物が呼吸をするかのように、岩肌が隆起し始めたのだ。


「下がれ、リョウ!」クラウスの声が響く。

 次の瞬間、轟音とともに巨大な岩壁が広間を貫いた。土の魔導師が杖を掲げ、低く唸るような呪文を唱えている。

 リョウとクラウスの間に、圧倒的な質量の壁が立ちはだかった。


「くそっ、分断されたか……!」

 リョウは歯噛みし、背後を確認した。三方を敵兵が囲んでいる。斧を構えた男、短剣を持つ軽装兵、そして槍兵――どれも実戦慣れしている動きだ。

 短剣を握り直し、リョウは低く構えた。息を吸い、心臓の鼓動を戦場のリズムに合わせる。


 一方、クラウスは岩壁の向こうで剣を振り下ろす。重い音が響くが、土壁はびくともしない。

「ちっ……何層にも重なっている!」

 彼が再度剣を振り上げようとした瞬間、壁の向こうからエルネアの声が届いた。

「クラウス、動かないで!」

 光が差し込む。岩の亀裂から、淡い金色の光が漏れ出した。それはエルネアの回復魔法――壁越しでも仲間の位置を感じ取り、光の糸のように癒しを通す。

 クラウスの腕に残っていた切り傷がたちまち塞がっていった。


「……ありがとな、エルネア!」

 彼は歯を食いしばり、再び壁を睨んだ。


 その頃、モンブランの周囲では混沌が広がっていた。

 毒蛇の魔女が両腕を広げ、薄紫の煙をまとう。地を這う音が増え、無数の蛇が床一面に溢れ出す。

「来なさい、わたしの愛し子たち――その死体も血も、すべて我が糧に!」


 スライムのライリィが蛇を呑み込もうと跳ねるが、牙が突き刺さり、体が紫に染まっていく。牙鼠のゾウが尾を噛み、トビーが魔女の顔めがけて突っ込むが、毒蛇の波が押し寄せ、3体が次々に絡め取られていった。

 アンデッドの兵士たちも蛇に噛まれ、黒い体液を流しながら膝をつく。


「ライリィ、毒を放出!」

 スライムは毒を体内で一点にまとめると、口から放出した酸は敵兵への攻撃になる。

 モンブランの指示はさらに続く。

「……まだ終わらせない!ライリィ、酸を放って!」


 スライムの酸が土壁の亀裂に染み込み、静かに泡立つ。

 次の瞬間、内部で鈍い爆音が響いた。酸が岩の魔力構造を崩壊させたのだ。

 亀裂が走り、壁が崩れ落ち、リョウとクラウスが再び視界を取り戻す。


「ナイスだ、モンブラン!」リョウが叫ぶ。

 クラウスが剣を構え、瓦礫を踏み越えて合流する。二人が背中合わせになる瞬間、敵兵たちがざわめいた。

「今度こそ、合わせるぞ」

「おう、二度と離れねえ!」


 二人の剣が交差し、周りの兵をなぎ払う。クラウスが突きを放ち、リョウがその死角から短剣で喉を掻く。

 刃が閃くたび、血の飛沫と火花が舞う。

 背後ではモンブランのモンスター、牙鼠のゾウが毒蛇の首を噛みちぎり、鳥のトビーが魔女の顔面に爪を立てていた。


「よくやった……でも無理はするな!」リョウが振り返って叫ぶ。

「へへ、あの子たちのがんばりに負けてられないし!」モンブランは笑いながら周囲を窺う。


 戦況は拮抗していた。

 だが、敵の魔法使いたちはまだ健在。老魔導師は別の詠唱を始め、土壁の欠片を無数の礫に変え、空中に浮かべる。

 一方で毒蛇の魔女は傷ついた蛇たちを飲み込み、自らの腕を黒く変色させていく。

「次は……こちらの番よ」

 不気味な声が響き、広間全体の空気が冷たく沈む。


 リョウは仲間たちの方へ目を向けた。

「このままじゃ埒が明かねぇ……分断されたら終わりだ」

「なら、まず魔術師を止める!」クラウスが答える。

「アンデッドを囮に使うわ」とエルネア。

「私はこの子たちで詠唱を邪魔する!」モンブランがうなずく。


 それぞれが短く言葉を交わし、息を合わせた。

 戦場の喧噪の中で、互いの声がはっきりと届く。

 恐怖よりも、信頼がそこにあった。


 リョウは短剣を逆手に握り直した。

「行くぞ――次の一手で流れを変える!」


 その声とともに、彼らは再び走り出す。

 岩の残骸を踏み砕き、毒蛇の群れを裂き、闇の中で光が交錯する。

 仲間の絆が、ついに本当の“戦いの形”となって現れ始めた。

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