王都グランフェリア編 第16章:パート1「速攻」
耳をつんざく金属音が、王家の墓の広間に響き渡った。
重厚な扉を蹴破り突入したリョウは、瞬時に視線を走らせる。敵の数、配置、動き。すべてを記憶に刻み込むためだ。
――数はざっと二十名ほど。
剣と斧を構えた私兵が十。土壁を操る老魔導師と、毒蛇を呼び出す女魔術師が後衛。さらに祭壇の側には子供を見張る二人と、黒いローブに仮面をつけた五人組が控えている。
そして、そのすべてを背後から見下ろす男――ダリウス・ヴァルモンド。
金装飾の聖杯を守るように背にし、まるで舞台の主役のように立っていた。
「速攻!!」
クラウスが低く叫ぶと同時に、巨剣を構え突進する。
リョウはその背に合わせて疾走した。二人の足音が石床に反響し、敵陣の中央を貫く。
刃が交錯し、火花が散った。
クラウスの一撃は重量と精度を兼ね備え、正面の斧兵を一瞬で吹き飛ばす。
その隙を逃さず、リョウが横合いから滑り込み、もう一人の兵士の喉元を短剣で裂いた。
鮮血が飛び散る中、二人は互いに声を交わす。
「ナイスだ、リョウ! 次、右だ!」
「任せた! 背中は預ける!」
息の合った二人の動き。重剣と短剣――対照的な武器が、まるでひとつの舞のように敵陣を切り裂いていく。
初撃で二人を倒した勢いのまま、彼らは陣形を崩すように中央へ突き進んだ。
その後方では、モンブランが両手を振りかざし、小さな仲間たちに指示を飛ばしていた。
「ライリィ、足を狙って! ゾウは噛みつき攻撃! トビー、あの魔女の口を止めて!」
スライムのライリィが地を這い、敵兵の足元にまとわりつく。粘液が足を絡め取り、兵士が体勢を崩した瞬間、牙鼠のゾウが腰に噛みついた。
悲鳴が上がる。その上空では小鳥のトビーが女魔術師の顔に突っ込み、詠唱を妨害する。
「くっ、このガキどもが!」
魔術師が杖を振るうが、トビーはすばやく宙を舞い避けた。
小さな羽音が戦場に響く。その軽やかな動きは、緊迫した空気にわずかな希望をもたらす。
一方で、エルネアは後方に立ち、杖を構えた。
その瞳は静かに輝き、呪文を紡ぐ唇が淡く光を帯びる。
「〈癒光の雫〉……! リョウ、後ろっ!」
温かな光がリョウの肩口に降り注ぎ、浅い切り傷が瞬時に塞がる。
彼が振り向くと、エルネアの表情は汗に濡れながらも穏やかだった。
だがその手元では、すでに次の魔法陣が展開している。
「――〈死者よ、立て〉」
低く囁く声とともに、倒れた兵士の影がぬらりと動いた。
骨の軋む音。やがて白骨化した腕が石床を叩き、骸骨の兵士が立ち上がる。
朽ちた剣を握り、無言で前線に歩み出る姿に、敵兵たちが恐怖の声を上げた。
「な、なんだこいつらは……! 死人が、動いてやがる!」
「怖気づくな! ただのまやかしだ!」
隊長格の怒号が響くが、彼の声には動揺が混じっていた。
リョウはその隙を逃さず、前方の兵士を蹴り飛ばして叫ぶ。
「今だ、クラウス!」
「応っ!」
クラウスの剣が横薙ぎに閃き、三人目の兵士を吹き飛ばす。
その巨体から繰り出される一撃は、鎧ごと敵を砕くほどの威力だ。
だが敵も負けてはいない。
土壁の魔導師が杖を突き立て、轟音とともに岩の壁が隆起。前線と後衛を分断する形で広間の中央を切り裂いた。
これにより、リョウとクラウスの進軍は一時的に停止する。
「ちっ、分断か……!」
「リョウ、下がれ! 一度態勢を立て直す!」
クラウスが盾代わりに剣を構え、岩片を弾く。
その背後で、リョウは再び戦況を確認する。敵の動き、仲間の位置、そして聖杯の輝き――。
彼の頭の中で、戦略の歯車が再び回り始めていた。
モンブランの声が響く。
「リョウ! ライリィたち、もうちょっともつよ! 今のうちに突破口を!」
リョウは振り返り、モンブランの必死な表情を見て、短く頷いた。
「わかった、やる!」
エルネアの召喚した骸骨兵たちが壁に爪を立て、少しずつ崩していく。
彼女の魔力はまだ十分ではないが、その粘り強さが仲間たちの士気を支えていた。
――盗賊ギルドを抜けたときの戦いを思い出し、チームのまとまりに高揚感を感じる。
リョウは、再び短剣を握り直した。
「行くぞ、クラウス。俺たちの戦い方を見せてやる!」
「おう、派手にやろうぜ!」
二人は岩壁に向かって同時に駆け出した。
モンブランのモンスターたちがその背中を守り、エルネアの光が彼らの進む道を照らす。
戦場の鼓動が高鳴る。
――ここからが本当の戦いの始まりだ。




