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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第15章:パート3「決戦」

崩れかけた祭壇の間に、血のような光が揺れていた。

 冷たい石の床の上、聖杯が微かに震え、底から燐光を放っている。空気がざらつき、肌に刺さるような魔力のうねりが空間を満たした。


 ダリウス・ヴァルモンドはゆっくりとその光の前に歩み出た。

 漆黒の軍服に身を包み、銀糸の刺繍が炎を映して妖しく光る。背後には私兵と誘拐団の残党たちが列をなし、その目は恐怖と熱狂の入り混じった色をしていた。


「――貧しき民は進んで子を差し出した」

 その声は低く、だが広間全体に響くほどの圧を持っていた。

「口減らしのため、そして我が旗の下に並ぶ未来の栄光を望んでな。

 彼らは理解しているのだ。腐りきった王政に救いなどないと。だからこそ、この聖杯が再び血を求めた時、彼らはそれを“希望”と呼んだのだ」


 リョウは思わず拳を握りしめた。血が滲むほどに。

 その背後で、モンブランが唇を噛み、クラウスが剣を構えながらも動揺を隠せずにいた。

 幼い子供たちの幻影が、彼らの脳裏をよぎる。笑顔で遊んでいたあの街の子たち――その瞳が今、儀式の“供物”として狙われていたのだ。


「てめえ……子供たちの命を利用して、王になろうってのか!」

 怒声が響いた。

 リョウの叫びは、憤怒というより絶望の奥底から絞り出された悲鳴のようだった。


 だが、ダリウスは口角をゆるめ、嘲笑を浮かべる。

「否、王ではない。救世主だ」

 その言葉に込められた自信は狂気と紙一重だった。

「この世界は滅びを待つ病人だ。誰かが血を流し、新たな秩序を築かねばならぬ。

 私はその先駆けとなる。民を導く光だ。――旧き血に代わり、真なる支配者を創り出す聖なる儀式、それがこの聖杯の本質だ!」


 その瞬間、聖杯の中から突如として轟音が響き渡った。

 まるで千の囁きが同時に叫ぶような、不協和音の嵐。

 淡い光が紅く染まり、空間全体が脈動する。壁に刻まれた古代文字が一つずつ浮かび上がり、光の糸となって天井へと昇っていく。


 エルネアが叫んだ。「やめて! それ以上触れたら――!」

 だがダリウスは聞かない。

 彼は腕を広げ、恍惚とした表情でその光を受け止めた。

 「見よ、これが千年封じられし力! 血と瞳を捧げし時、聖杯は王を生む! この力があれば、民の心を支配することなど造作もない!」


 リョウの目が怒りに燃え上がる。

「それが――お前の革命か? ただの洗脳だろ! 人の心を奪って、何が王だ!」


 ダリウスは一歩、二歩と前へ進み、リョウの目前に立つ。

 聖杯の光がその頬を照らし、瞳が異様な金色に輝いていた。

「 王とは人から畏れられるものだ。そして導かねばならぬ。私が、そのための“王”を創るのだ!」


 その時、聖杯の光が暴発した。

 空間全体に衝撃波が走り、瓦礫が宙を舞う。

 光の粒がまるで炎のように渦を巻き、私兵たちの身体に吸い込まれていく。

 彼らの瞳が一斉に赤く染まり、無表情に剣を抜いた。


「さあ、選べ!」

 ダリウスの声が、狂気を孕んだ咆哮に変わる。

「墓標となるか、革命の礎となるか!」


 その号令と同時に、私兵たちが一斉に動いた。

 刃が閃き、火花が散る。エルネアが詠唱してアンデッドを召喚して盾を作り、モンブランがモンスターでかく乱させ、クラウスが剣を旋回させて反撃する。

 リョウは短剣を抜き放ち、一直線にダリウスへと駆けた。


 金属がぶつかり合い、火花が散る。

 聖杯の光が天井まで届き、崩れかけた石の壁が軋む。

 空気が熱を帯び、世界が歪んでいくようだった。


 リョウは必死に叫ぶ。

「お前の“光”なんかに、誰も救えねぇ!」

 その叫びと同時に、彼の刃がダリウスの近衛兵の剣により弾かれた。

 だが次の瞬間、聖杯の光がより強くなる――。


 響く鼓動。

 誰かの悲鳴。

 血と瞳を対価にするという古代の呪いが、ゆっくりと現実のものとなっていく。


 それでも、リョウは退かなかった。

 足元の瓦礫を踏みしめ、仲間の背中を見た。

 モンブランの瞳が燃えていた。クラウスが倒れた兵士を盾に次の刺客のスキを狙い、エルネアが詠唱を続けている。

 ――ここで終わらせなければ、また誰かが奪われる。


 リョウは息を吸い、短剣を構え直した。

 その瞳に宿った光は、聖杯の赤とは違う。

 それは、仲間を信じる強さと、人間としての“誇り”そのものだった。


 「俺たちの革命は――奪うためじゃない。取り戻すためだ!」


 広間の戦闘は、こうして火蓋が切られた。


 

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