第5章:事件の真相
馬車事件の真相は、想像を超えていた。
リョウたちが調べを進める中で、クラウスが地方の貴族の情報網を駆使して得た情報は、ある地方領主の名前にたどり着いた。その領主の屋敷では、最近になって禁術関連の書物が何者かに盗まれ、家臣たちが入れ替わり立ち替わり奔走しているというのだ。
「禁術って……そんなやばいもん、馬車で運ぶか?」 「逆に馬車なら目立たないって考えたんだろう。おそらく馬車を襲った刺客は地方領主に雇われた暗殺者だろう………問題は、その運搬を盗賊ギルドに依頼した“誰か”がいるってことだ」
クラウスが地図を広げ、馬車の出発地点と目的地と思われるルートを指差した。
「元々この領主、表向きは文化財保護に熱心な学者気取り。でも実際は、盗賊ギルドに禁術を収集を依頼していたコレクターらしい。どうも、その領主をギルドの一部の幹部が裏切ったみたいだ」
リョウの脳裏に、馬車の中で見た揺れる木箱の記憶がよみがえる。あの中には、禁術に関係する何かが封印されていたのかもしれない。
「……これを報告すればギルドにも恩が売れるし、禁術を集めていた脅しにもなって一石二鳥ってことだな。つまり、俺が異世界に来て最初に関わった事件は、ギルドの裏の顔と、この国の権力者たちの闇が絡む、でっかいスープの一滴だったってわけか」
「スープて」
「……土鍋で殴ったから、つい」
「しょうがないなぁ」
そんな会話をしている横で、モンブランが静かにネズミ型モンスターを手に取った。
「こいつ、“チューバ”っていうんだ。盗み聞きが得意で、言葉も理解できる」
モンブランは、チューバにギルド本部の通気口から潜入させ、会議室での会話を盗み聞きさせるという作戦を立てた。
数日後、羊皮紙を持ったチューバの鳴き声をモンブランが翻訳すると、
それは信じがたい内容が残されていた。
――ギルドの一部幹部たちは、禁術を用いた“変革”を計画していたのだ。
「変革って、何を変えるつもりなんだ……」
「王政そのものだ。武力じゃ勝てないから、禁術を使って傀儡にして裏から操るつもりらしい」
その話を聞いたエルネアの顔が蒼白になる。
「それって生者を意のままに操ったりするやつよ? そんなもんで国をひっくり返そうなんて……」
「……正気じゃないな」
クラウスはため息をつきながら言った。「だが逆に言えば、これが証拠になる。王家に報告できれば、俺たちは保護を受けられるかもしれない」
リョウは頷いた。「ナリスの一族……金を生み出す魔法を持つ一族だ。あいつらに頼んで、王家の庇護を受けよう」
「でもそれ、簡単に会えるの?」
「あの子――ナリス――が“英雄様”って言ってくれてる。なんとか渡りをつけてみるよ」
モンブランがにっこり笑った。「英雄様、頑張って」
「おい、その“様”つける感じ、ちょっとバカにしてないか?」
「まさかー」
こうして、事件の核心に迫る証拠を手に入れた彼らは、いよいよ国の暗部へと足を踏み入れることになる。
そしてリョウはふと思った。
(俺、なんでこんなことになってんだ……ただのドキュメンタリー好きの社畜だったのに)
だが今は、戻る場所も、戻る術もない。
だからこそ、前へ進むしかなかった。
例えそれが、国家を揺るがす真相であっても。