王都グランフェリア編 第14章:パート4「王家の墓」
ついに彼らは遺跡の最深部へと到達した。そこは「王家の墓」と呼ぶにふさわしい荘厳な空間だった。
高い天井には漆喰の名残がまだ白く輝き、壁一面には王や戦士たちの栄光を描いた古代の壁画が広がっている。ランタンの炎が揺れるたび、壁画の中の兵士や神々が今にも動き出しそうに見える。足元は磨き上げられた黒曜石の床で、重く冷たい感触が靴底を通じて伝わってきた。
そして広間の中央には、まるで宝物のように巨大な壺が鎮座していた。全体が黄金の装飾で覆われ、光を反射してきらめくその姿は、副葬品というよりも神殿に奉納された神具のように見える。
「……あれが、王家の秘宝か」
リョウは思わず息を呑み、無意識に一歩踏み出した。
モンブランも瞳を輝かせ、小声で呟く。
「すごい……本物の黄金だ……!」
だが、その瞬間。広間に張り詰めた気配が走った。
柱の陰、暗がりから音もなく影が現れる。
「動くな」
低い声と共に現れたのは、黒ずくめの男たち。数人が広間に散らばり、鋭い刃を手にしていた。その顔には見覚えがある。これまで裏で暗躍し、村人たちを翻弄してきた誘拐団の一味――。
彼らは一歩前に出ると、背後から数人の子供を突き出した。子供たちは縄で縛られ、口を塞がれている。その小さな体に冷たい刃が突きつけられた。
「壺も、ガキどもの命も、俺たちの手の中だ」
男の一人が吐き捨てるように言い放つ。
広間の空気が一瞬で凍り付いた。リョウたちは反射的に武器に手をかけるが、子供たちの姿を前にして一歩も踏み込めない。
「くそっ……!」
クラウスは奥歯を噛み締め、剣の柄を握りしめる。
エルネアは小さく震えながらも、子供たちの瞳をまっすぐに見つめた。恐怖に泣きそうになりながらも、助けを求める必死の眼差し。見過ごすことなどできない。
モンブランの鼻息は荒く、今にも飛び出しそうだが、リョウが手で制した。
「落ち着け……奴らの狙いは壺だ。焦れば子供たちが危険だ」
暗闇の中から笑い声が響いた。
「そうだ、坊や。その通りだよ。賢いなら余計な真似はするな。俺たちはただその壺で儀式をしているだけだ。。余計な抵抗をすれば、この子供たちの命が散る」
挑発と同時に、刃が子供の喉元に軽く押し当てられる。細い悲鳴がもれ、リョウの胸に冷たい怒りが広がった。
――この状況をどう打開するか。
誰もが呼吸を殺し、互いの次の一手を探る。
リョウたちと誘拐団。
黄金の壺を挟み、ついに直接対決の幕が切って落とされようとしていた。




