王都グランフェリア編 第14章:パート3「水晶パズル」
石壁に彫られた古代文字の列を抜けると、そこには今までの通路とはまったく異なる光景が広がっていた。天井の高い円形の部屋。壁一面に大小さまざまな鏡や水晶が組み込まれており、中央には黒い石でできた重厚な扉がそびえ立っている。その扉には太陽を象った紋章が刻まれており、まるで「光こそが鍵だ」と主張しているRPGゲームのようだった。
天井の一部が崩れ、そこから細い光の筋が差し込んでいる。しかし光は直進するだけで、扉には届かない。部屋に散らばる鏡や水晶を経由させ、正しい角度で導く必要があるのだとすぐに分かった。
「……これは光を操る仕掛けか」
リョウが感嘆の声を漏らす。
クラウスは険しい表情で壁を眺め、指先で鏡の枠を軽く叩いた。
「間違えれば即座に罠が作動するだろうな」
その言葉を裏付けるように、足元の床には焦げ跡が点々と残っていた。過去に誰かが挑戦し、光を誤って拡散させたのだろう。熱線に焼かれたであろう黒い跡は、無言の脅威となって一行を威圧した。
「やっぱり……罠つきか」
モンブランはごくりと唾を飲むが、それでも瞳の奥はきらきらと輝いていた。危険を前にしても、彼女の冒険心は揺るがない。
そんな中、エルネアが壁の一角に近づき、古代文字を指先でなぞった。文字の配列と水晶の配置を照らし合わせ、真剣な表情で呟く。
「これは……“太陽の道を示す”と書かれているわ。水晶を正しい角度に置けば、光は紋章へ届く。逆に誤れば、部屋全体に光が散乱して、熱線が罠として働く仕組みみたい」
「つまり正解のルートを見抜けってことか」
リョウはエルネアの言葉を受け止め、顎に手を当てて考え込む。
時間をかければ光の角度は変化し、日差しは弱まる。猶予はそう長くない。リョウは鏡の角度をひとつひとつ確かめながら、光の筋を水晶に反射させていった。
「モンブラン、君は小柄だから、この低い位置の鏡を動かすのに適してる。そこを少し左に」
「了解!」
彼女は素早く駆け回り、鏡を押して調整した。
「エルネア、文字の指示はどうだ?」
「大丈夫、順路は間違ってないわ。次は右壁の水晶を四十五度に傾けて」
リョウは指示を受け、慎重に鏡を操作した。光の筋は蛇のようにくねりながら進み、部屋の中央を横切っていく。しかし一瞬でも角度を誤れば光は暴発し、床を灼き切るだろう。緊張で額に汗が滲む。
「クラウス、あそこだ! 天井近くに最後の仕掛けがある!」
リョウが叫ぶと、クラウスは迷わず壁を蹴り、岩を踏み台にして高所に飛び上がった。天井近くの装置は重く錆びついており、人の力で押さえ込まなければ動かないようだ。クラウスは歯を食いしばり、その巨大な水晶板を全力で固定した。
「今だ、リョウ!」
クラウスの声に応じ、リョウは最後の鏡を動かした。
光の筋は一直線に走り、やがて扉に刻まれた太陽の紋章を照らし出した。その瞬間、紋章が黄金色に輝き、低い重々しい音が響く。
「……開いた!」
モンブランが目を輝かせて声を上げる。
扉全体がゆっくりと振動し、石の擦れる轟音と共に重々しく開いていく。冷たい風が内部から吹き抜け、古代の封印が破られるのを感じさせた。
リョウは大きく息を吐き、汗を拭いながら仲間たちを振り返った。
「やっぱり四人いると違うな。誰かひとり欠けてたら、ここは突破できなかったかもしれない」
クラウスは黙って頷き、エルネアは静かに笑みを浮かべる。モンブランは胸を張り、「あたしだって役に立ったでしょ!」と声を弾ませた。
「もちろんだ」
リョウが答えると、モンブランの頬はほんのり赤くなった。
太陽の光に導かれた扉の奥には、さらなる秘密と危険が待ち構えているだろう。それでも彼らの心には、一歩前進した確かな手応えが宿っていた。
こうして四人は、光の仕掛けを突破し、王家の墓へ続く道を切り拓いたのだった。




