王都グランフェリア編 第13章:パート1「再び」
石造りの回廊に足を踏み入れた瞬間、重苦しい空気が肌を撫でた。冷たい石壁はわずかに湿り気を帯び、苔が張り付いている。リョウは背筋を伸ばして周囲を警戒し、モンブランは肩に手を添えながらもどこか落ち着かない様子で辺りを見回す。エルネアは懐から折り畳んだ羊皮紙をそっと取り出し、細い指先でそれを確かめるように撫でた。彼女の顔には、覚悟とわずかな緊張が同居していた。
「気を抜くなよ。こういうところは何か仕掛けがある」
クラウスが低い声で告げる。彼の経験に裏打ちされた直感は、すぐに正しかったと証明されることになる。
不意に、奥の暗闇の向こうから轟音が響いた。地面が震え、石壁の粉がぱらぱらと落ちてくる。
「……来るぞ!」クラウスが叫んだ直後、闇の中から現れたのは、直径三メートルはあろうかという巨大な石球だった。冷たい光を反射しながら、恐ろしい勢いで回廊を転がってくる。
「またかよっ!!普通アニメでは同じ仕掛けなんてないぞっ!!」リョウは思わず叫んだ。以前、別の回廊で同じような仕掛けに命を脅かされた記憶がよみがえる。足がすくむが、逃げ場は狭く、左右の壁には避難できる隙間すらない。
その時、エルネアが一歩前に出た。
「任せて。準備はできてる」
彼女は懐から広げた羊皮紙を床に叩きつけるように置き、すでに描いておいた魔法陣に走り書きで符を追加した。インクが滲む間もなく、紫色の光が瞬き、魔法陣が激しく輝きを放つ。
次の瞬間、床から無数の骸骨兵が這い出てきた。鎧をまとい、錆びた剣や盾を手にした彼らは、石球に向かって立ちはだかる。
「行け!」エルネアが叫ぶと、骸骨たちは一斉に突撃した。
轟音とともに石球が彼らを押し潰す。砕け散る骨の音が響き渡り、召喚体は次々と粉砕されていった。しかしその犠牲は無駄ではなかった。骨と鎧がクッションとなり、石球の勢いがわずかに殺されていく。二体、三体と押し潰されても、次の骸骨が続いては体を張って立ち塞がる。石球の速度は徐々に鈍り、やがて鈍重な転がりへと変わっていった。
クラウスはその光景を目にして目を細めた。
「……まるで手慣れている。あの手際、無駄がないな」
彼の声には驚きと賞賛が入り混じっていた。敵を出し抜く用意をしていたかのような落ち着き、あらかじめ練られた戦術。それを支える冷静さに、戦士としての感覚が震えたのだ。
リョウは大きく肩で息をしながら、口元を引きつらせて笑った。
「そりゃ……二回目だからな。こんなの、慣れたくもないけどよ!」
彼の軽口に、モンブランが「ひぃ……本気で死ぬかと思った!」と胸を押さえる。だが、恐怖の中にも仲間がいる安心感が漂い、空気はほんの少し和らいだ。
最後の骸骨兵が押し潰された瞬間、石球は壁にぶつかり、重々しい音を立てて止まった。粉塵が舞い、回廊は静寂を取り戻す。床には砕けた骨と鉄片が散乱していたが、それは彼らを守るために費やされた代償だった。
エルネアは羊皮紙を拾い上げ、指先で新しい符を書き足していく。彼女の瞳にはまだ油断の色はない。
「次はもっと複雑な仕掛けが待っているかもしれない。覚悟して進みましょう」
その言葉に、全員が頷いた。
命を脅かす罠を退け、再び一歩前へ。彼らの冒険は、ますます深い領域へと進んでいくのだった。




