王都グランフェリア編 第11章:パート4「ドキドキする」
水路を抜け、逆さの回廊の奥へとたどり着いた三人。最後の仕掛けが作動した瞬間、天井にあった巨大な扉が、低い音を立てながら開いていく。
それと同時に、三人を天井に縛りつけていた見えない力がふっと消え、体が地面へと引き寄せられた。
「うわっ――!」
「きゃあっ!」
思わず叫び声をあげるモンブランとエルネア。リョウはとっさに受け身を取り、二人が頭を打たないように片腕で支えながら着地する。
ほこりが舞い上がり、静寂が訪れた。
「……無事か?」
リョウが息を整えながら問いかけると、モンブランは地面に座り込んだまま、ぱちぱちと瞬きをしたあと、ふっと笑った。
「……生きてる! やったー!」
「もう、こんな仕掛け、心臓に悪いわ……」
胸を押さえてため息をつくエルネア。彼女の髪の先には、まだ天井のほこりがくっついている。
リョウはふう、と深いため息をつき、額の汗をぬぐった。
「なんだか……モンブランといるとドキドキするというか……」
不意に漏らした言葉に、自分でも「あっ」と思う。
モンブランはその場で固まり、真っ赤になった顔をリョウに向けた。
「えっ……い、今、なんて……?」
彼女の耳まで真っ赤になっているのがわかる。
リョウも遅れて自分の言葉を思い出し、慌てて首を振った。
「ち、ちがう! そういう意味じゃない! あんな罠を平気で走り抜けるから……ハラハラする、って意味だ!」
「そ、そう……?」
モンブランはまだ赤い顔のまま、つい笑ってしまった。
リョウは自分でもわけのわからない焦りを感じ、頭をかきむしる。
「だから誤解するなって……!」
そんな二人を見て、エルネアは小さく笑った。
「ふふ、いいコンビね。どんな罠よりも、二人のやりとりのほうが見ていてハラハラするわ」
リョウとモンブランは同時に「やめろ!」と抗議し、顔を背ける。
空気が少しだけ和らいだ。
通路の先、開いた扉の向こうには、階段が下へと続いている。
そこから流れてくる空気は、ひんやりとして、どこか厳かな気配を含んでいた。
「……次は今回みたいに一筋縄ではいかないかんじね………」
エルネアが杖で床を軽く叩き、響きを確かめる。
モンブランは背筋を伸ばして、胸を張った。
「ここまで来たんだもん、最後まで行こう!」
「いや、まだ最後とは限らないだろ……」
リョウは苦笑しつつも、腰の剣を確かめた。
心臓が高鳴っているのを自覚する。さっきまでのハラハラが、今は不思議な高揚感に変わっている。
もしかすると、仲間と一緒ならどんな罠だって乗り越えられる――そんな気さえしていた。
「行こうか」
エルネアが先頭に立ち、三人は再び歩き出す。
逆さの回廊を抜け、奇妙な仕掛けをすべてクリアした彼らの足取りは、ほんの少しだけ軽かった。
そして、暗闇の底から、次なる試練が彼らを待ち受けているとも知らずに。




