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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第11章:パート3「逆さまの回廊」

水路を抜けた三人は、湿った石段を上りきったところで、思わず息を呑んだ。そこには常識では考えられない光景が広がっていた。


「……なんだ、これ。」リョウがぽつりと呟く。


目の前に現れたのは、天井全体に張り巡らされた通路だった。壁面から伸びる階段は上ではなく、天井に向かって突き刺さっている。そして、その手前には円形の魔法陣が淡く光を放っていた。


「これは……重力反転の術式ね!」エルネアが興奮気味に魔法陣に近づく。「古代文明の中でも失われた高度な空間魔法のひとつよ。こんなものが実在するなんて……!」


リョウは頭を抱えた。「いや、待て待て。重力反転って……要するに俺たちが天井に落ちるってことか?」


「落ちるんじゃないわ、‘落ちる方向が逆になる’の。」エルネアがさらりと言う。「理論上は安全よ。」


「理論上って言ったな今……」リョウは渋い顔をした。


しかし進むには試すしかない。リョウが深呼吸して魔法陣に足を踏み入れた瞬間、世界がぐるりと反転した。視界がひっくり返り、体がふわりと浮いたかと思うと、次の瞬間には天井に吸い寄せられるように着地していた。


「うわっ……マジかよ……!」


思わず尻もちをついたリョウの横で、エルネアは驚きの笑みを浮かべている。「成功ね! さあ、進みましょう!」


後ろからモンブランが恐る恐る魔法陣に乗る。次の瞬間、彼女も逆さの床にぺたりと着地し、思わず「ひゃあああっ!」と情けない声をあげてリョウにしがみついた。


「落ちてない! 生きてる! でもこれ絶対おかしいだろ!」


「だから落ちてないって言ったでしょ。」エルネアがくすくす笑う。


こうして三人は「逆さの回廊」へと踏み出した。足元――いや、天井は滑らかな石でできており、壁には精緻なレリーフが刻まれている。遠くまで続く通路は迷路のように曲がりくねり、ところどころに奇妙な仕掛けや光る魔法陣が配置されていた。


リョウは慎重に壁際を歩きながら言った。「罠があるかもしれない。足元はちゃんと確認しろよ。」


「了解!」モンブランは元気よく返事をした――が、その直後、何を思ったか彼女は「ひゃっ」と声を上げて走り出してしまった。


「おい待てモンブラン!?」リョウが慌てて手を伸ばすが間に合わない。


彼女が勢いよく駆け抜けた瞬間、床の石がカチリと沈み、奥の壁から矢が一斉に飛び出した。さらに別の場所では床板が回転し、天井から砂が大量に降り注いでくる。


「罠作動したー!?」リョウが絶叫。


だが驚くべきことに、モンブランは軽快な動きでそのすべてをギリギリでかわしながら走り抜け、次々と別の仕掛けを踏んでいった。


カチッ、ガシャン、ゴゴゴゴ……


通路全体がうねるように動き、矢が止まり、砂の流れが止まり、最後には巨大な扉がひとりでに開いた。


「……え、終わった?」リョウは口をぽかんと開ける。


モンブランは少し先で立ち止まり、肩で息をしながら振り返った。「あれ? なんか……全部止まった?」


エルネアは信じられないという顔で彼女を見た。「あなた……全部の解除スイッチを順番通り踏んだのよ。偶然にしては……いや、完全に偶然ね。」


リョウは膝から崩れ落ちた。「いやいや、何その漫画的幸運……普通なら死ぬやつだろ……」


モンブランは照れ笑いを浮かべ、「へへっ、結果オーライってやつ?」と頭をかいた。


「いや結果オーライすぎるわ!」リョウが思わずツッコむ。


しかし、通路は完全に安全になり、三人は安心して進めるようになった。


「……まあ、助かったわね。」エルネアが微笑む。「これで先に進める。」


「お前……次もやってみるか?」リョウが冗談めかして言うと、モンブランは「いやいやいや次はやだ!」と首をぶんぶん振った。


笑い混じりの緊張がほぐれ、三人は扉の向こうへと進んでいった。奥に待つのは、さらに不可思議な仕掛けと、王家の秘密に迫る謎。胸の鼓動が高鳴るのを感じながら、彼らは歩みを進めた。

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