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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第11章:パート2「古代水路②」

水路を進むにつれて、空気はひんやりと湿り、足元の石畳はつるつると滑りやすくなっていった。天井からは一定の間隔で水滴が落ち、遠くからは水の流れる低い轟音が響いてくる。まるで地下そのものが生き物のように脈打っているかのようだ。


「…待て、何かある。」

先頭を歩いていたリョウが手を上げると、全員足を止めた。


視界が開け、広い水槽のような空間に出た。四角く掘られた広間の中央には澄んだ水がたたえられ、両脇の壁には苔むしたレバーや丸い石盤が整然と並んでいる。壁面には見慣れない文字が刻まれ、薄暗い光の中で妖しく輝いていた。


「この文字は……古代王国時代の水路よ。間違いないわ。」

エルネアが目を輝かせ、壁に刻まれた文字を一つずつ指でなぞる。「このレバーと石盤は、水位を調整するための装置ね。古代都市では生活用水を一定に保つためにこういう仕組みを使っていたらしいわ。」


「すご~い……」モンブランが感嘆の声を漏らし、水槽の縁から身を乗り出して水面を覗き込む。「でも、これどうやって先に進むんだ? 扉は閉まったままだよ。」


リョウは顎に手を当てた。「たぶん、この水位が鍵なんだろう。エルネア、何か書いてあるか?」


「ええ……『水を均す者、道を得ん』とあるわ。つまり、一定の高さに水位を合わせると道が開く仕掛けね。」

エルネアは冷静に水位と壁の線を見比べた。「今は低すぎるわ。あの線まで満たさないと。」


「なら、あのレバーを動かせばいいんだね?」モンブランが勢いよく駆け寄る。


「ちょ、待っ――」リョウが止めるより早く、モンブランはレバーを引いた。

ギィィィ……と重苦しい音と共に天井のどこかから水が滝のように流れ込み、一気に水位が上昇していく。


「ちょっと! 速すぎます!」エルネアが叫ぶ。

「止めろモンブラン!」リョウが声を張り上げる。


慌てて逆方向にレバーを押し戻すと、今度は轟音とともに水が勢いよく抜け、広間全体が渦を巻き始めた。

「わわっ!?」モンブランが足を取られて転びかける。


「掴まれ!」リョウが素早く腕を伸ばし、モンブランを引き寄せる。同時にエルネアも壁の出っ張りにしがみつき、必死に耐えた。


水位が安定したところで、リョウが深呼吸して言った。「……やっぱり順番があるんだな。適当に動かすと危険すぎる。」


エルネアは眉間に皺を寄せ、再び古代文字を読み解く。「この順番で動かせば水位を少しずつ調整できるはずよ。リョウ、指示お願い。」


「任せろ。」

リョウは状況を瞬時に整理し、手順を組み立てる。「モンブラン、次は俺の合図で少しだけレバーを引け。」


「了解!」モンブランは気合を入れ、今度は慎重にレバーを動かした。


水がゆっくりと注ぎ込み、エルネアが「もう少し……止めて!」と声を上げると、モンブランがレバーを固定する。

次にエルネアが別の石盤を回し、水流の方向を切り替える。

リョウは瞬時に通路の先を確認し、「今だ、次のレバーを引け!」と指示を飛ばす。


モンブランは足場を跳ねるように移動し、最後のレバーを引いた。

水面がぴたりと壁の線に揃った瞬間、広間全体が震え、重厚な石扉がゴゴゴ……と音を立てて開いていく。


「やった……!」エルネアが胸に手を当てて息を整える。


しかし次の瞬間、床の一部がカコンと沈み、奥から凄まじい勢いの水が流れ込んできた。


「罠か!」リョウが叫ぶ。

水の奔流に押され、三人は必死に踏ん張った。


「こっちにバルブがある!」モンブランが叫び、豪雨のような水しぶきを浴びながら飛びつく。

全力で回すと、水流が徐々に弱まり、やがて広間は静寂を取り戻した。


「ふぅ……死ぬかと思った……」モンブランがへたり込む。

「立て、まだ先がある。」リョウが手を差し伸べる。


三人は互いに顔を見合わせ、張り詰めた緊張が少しだけほどけた。危険ではあるが、仕掛けを突破したという達成感が胸を満たしている。


「次はどんな仕掛けかしらね。」エルネアが口元を引き結ぶ。

「どんなのでもどんと来いだよ。」モンブランが笑って拳を握る。


リョウは濡れた髪をかきあげながら言った。「行こう。まだ冒険は終わってない。」


三人は重厚な扉の向こうへ、慎重に、しかし確かな足取りで進んでいった。

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