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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第10章:パート1「地下通路への入り口」

ヴァルモンド家から辛くも脱出したクラウスは、夜の街路を人目を避けながら歩いていた。月明かりは薄雲に覆われ、瓦屋根の影を淡く浮かび上がらせる。その手には小さく折り畳んだ羊皮紙。そこには彼が潜入の折に盗み見て記憶し、短く走り書きした地図が記されていた。地下通路の存在を示す手掛かり――ヴァルモンド家の屋敷から外部へと続く、複数の出口のうちの一つが、郊外の空家にあるという印が残されていたのだ。


 地図に従って歩くうち、次第に街並みは賑わいから遠ざかり、路地は湿った冷気に包まれる。人気の途絶えた地区、崩れかけた建物が点々と並び、時折壁に穿たれた亀裂からは草木が伸び出していた。クラウスは呼吸を浅く整え、目的の建物を探す。


 やがて、通りの突き当たりにそれはあった。二階建ての石造りの屋敷。しかし窓ガラスはところどころ割れ、扉は半ば外れかけている。庭に植わっていたであろう木々は枯れ、枝は折れて影を伸ばしていた。荒れ果てた廃屋。だが彼の眼には、単なる朽ち果てた建物ではなく、何かを隠す「口」のように映った。


 ――ここが、地図に記された地下通路の別の入り口。


 胸の奥がわずかに緊張に震える。だが同時に、確かな手応えを覚えていた。これほど人目から外れた立地であれば、秘密を隠すにはうってつけだ。


 クラウスは周囲を一瞥する。建物の影、物陰、通りの奥。誰もいない。夜風にさらされた木板が軋む音がするばかりだ。慎重に近づき、建物の外壁に沿って歩く。石壁のつなぎ目に触れては強度を確かめ、窓から内部を覗き込む。暗く埃をかぶった家具がかろうじて見えるだけで、人の気配はない。


 「……間違いない。ここだ」


 小声で呟き、地図を胸にしまったそのとき――。


 かすかな足音が聞こえた。


 クラウスの身体は反射的に身を伏せ、近くの崩れた塀の影へと滑り込む。耳を澄ませる。ひとつ、ふたつ……いや、もっと多い。4人、いや5人はいるかもしれない。靴底が石畳を踏む規則的な音。それに混じって、か細い別の音――子供の靴音のような短く軽い足取りも感じられた。


 心臓が強く鼓動を打つ。こんな場所に人影があるとは予想していなかった。しかも、子供を伴っている? 単なる浮浪者や探検心に駆られた者ではない。これは偶然ではなく、何らかの目的を持って廃屋に近づいている気配だ。


 クラウスは呼吸を整え、影の中で腰の剣にそっと手をかけた。まだ早まってはならない。状況を見極める必要がある。


 足音は次第に近づき、やがて廃屋の正面に差し掛かる。月明かりに揺れる黒い影が5つ。そのうち3人の顔は仮面で覆われ、外套の裾が風にひるがえる。仮面の男たちは何事か小声で言葉を交わしながら、同じく仮面をつけた子供たちを強引に前へ押しやった。幼い悲鳴が小さく漏れるが、周囲に人の気配はなく、その声が助けを呼ぶことはなかった。


 ――やはり。これは偶然の通行人ではない。


 廃屋はただの空家などではなく、彼らの拠点か、あるいは地下通路への入口として利用されているのだ。そう考えるには十分すぎる光景だった。


 クラウスは息を潜め、視線を鋭くする。まだ動くには早い。まずは彼らの動きを確かめる。


 仮面の集団は扉を押し開き、子供たちを乱暴に引きずり込もうとしていた。月光が一瞬、仮面の表面を照らす。その冷ややかな無機質な仮面の眼孔には、感情の光は宿っていない。


 クラウスの喉が乾く。剣を抜き放てば、この状況は戦いになる。だが見過ごすわけにもいかない。胸の奥に迫る緊張と焦燥を押さえ込み、彼はただ影の中で息を殺していた。

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