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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第9章:パート3「急がば回れ」

石の迷宮を進む三人の旅は、予想以上に過酷だった。

 幾度も現れる分岐点。どちらの通路も同じように冷たい闇に沈み、足音を吸い込む。リョウは右手を壁に沿わせ続けることで「道を見失わない」方針を貫いたが、それでも行き止まりに突き当たることは数知れなかった。そして行き止まりに突き当たるたびに盗賊時代のスキルをつかって仕掛けなどがないかくまなく調べて進んだ。


 何もないとわかると三人は黙り込み、深呼吸してから戻る。石の壁に触れるリョウの手は汗と砂で荒れ、指先が赤く擦り切れている。

「……この方法は正しいはずだ。時間は食うけど、必ずどこかに繋がる」

 リョウは小声で自分に言い聞かせるように呟く。


 モンブランは鼻をひくつかせ、匂いの違いを感じ取ろうと努めていた。ときに、古い骨の匂い、苔の湿った匂い、あるいは血の鉄臭さが混じることもある。

「ここ……誰か通った跡があるかも。だが薄い。もう何日も前かもしれない………」

 彼女は不安げに眉をひそめた。


 エルネアはランタンを維持する役目を担っていた。遺跡に入って二つ目のランタンとなっており、三人の視界を支える。だが長時間の維持は疲労を伴い、額には細かな汗が浮かんでいた。

「体力的には問題ありません。ただ……集中力が切れるのが一番怖いですね」

 そう言って、慎重に当たりの様子を窺う。


 迷宮は彼らを試すかのように仕掛けを隠していた。

 ある通路では床石の一枚が不自然に浮き上がっており、リョウが足を乗せる寸前にモンブランが制止した。小さな穴から覗く金属片――矢を射出する罠だ。三人は息を合わせ、別のルートを慎重に選び直す。


 またある場所では天井がひび割れ、今にも崩落しそうに見えた。リョウは壁際を慎重に進み、エルネアがランタンででひびを照らしながら確認する。足元に落ちる小石一つにも緊張し、胸の鼓動が速くなる。

「焦らず、軽く歩いてください……重さをかけすぎると崩れるかもしれません」

 エルネアの指示に従い、三人は猫のような足取りでその場を切り抜けた。


 幾度もの行き止まり、幾度もの引き返し。進んでは戻り、また別の通路を進む。迷宮は容赦なく時間を奪い、疲労と苛立ちを募らせる。

 それでも三人は足を止めなかった。リョウの「右手法」を軸に、モンブランの感覚、エルネアのサポートが加わり、少しずつマッピングしていくことで確実に迷宮の構造を解き明かしていった。


 どれほどの時間が経ったのか、もう正確にはわからなかった。この世界の一日は三十時間。遺跡に入ってからランタン2つ目になり、だいぶ経つことを考えると15時間くらいとだろうか。腹は空き、喉は渇き、足は鉛のように重い。だが諦める選択肢は誰の胸にも浮かばなかった。


 ある時、リョウが壁を伝って進んでいると、空気の流れが変わったのを感じた。

「……風だ。こっちの道は確実にどこかに通じてる」

 その言葉に、二人の目が一瞬輝きを取り戻す。


 進むごとに風は強くなり、冷たさを帯びて頬を撫でる。出口が近い。三人は直感でそう悟った。足取りは重いはずなのに、不思議と軽さが戻ってくる。


 最後の分岐を抜けたとき、通路は広くなり、石の壁の先に空間の広がりを感じた。三人は互いに顔を見合わせ、言葉を交わさずに頷いた。

「……抜けた、のか」

 リョウが小さく息を吐く。


 迷宮は確かに彼らを試した。しかし三人は、知恵と感覚、そして盗賊として生きたスキルを重ね合わせ、道を繋ぎ、切り抜けたのだ。


 その実感が胸に広がると同時に、さらなる緊張が彼らを包み込む。これほどの迷宮を擁する遺跡の奥には、きっとに「王家の秘密」が待ち受けている――そう確信できたからだ。


 汗に濡れた額を拭い、リョウは拳を握った。

「ここからが本番だな」

 エルネアも杖を握る力を強め、モンブランは短剣を握り直す。三人は一歩を踏み出す。この先にあるものが栄光か、それともさらなる試練かは誰にもわからない。


 ただひとつ言えるのは――迷宮は突破した。そして次の扉は、確実に彼らを「真実」へと導くだろう。

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