第3章:決意の夜に
その日、空は晴れわたり、リョウたちは久々の“仕事休み”を楽しんでいた。
クラウスは市場の屋台で子供からお菓子を巻き上げていて、エルネアは薬草と称してよく分からない雑草を吟味し、モンブランは広場で野良モンスターと石投げをしていた。
「いやー、今日は平和だなぁ」
リョウがそう呟いたとき、遠くから子どもの悲鳴が聞こえた。
「助けてぇぇぇ!! 誰かぁぁぁ!!」
全員が顔を見合わせると、即座に走り出していた。
現場に到着すると、ボロボロのマントを羽織った集団が、泣きじゃくる幼子を袋に詰め込もうとしていた。
「こら! 誘拐なんて犯罪だぞ!」
「いや、俺たちも犯罪者ではあるけど!」
クラウスが自らの矛盾に突っ込みながら剣を抜く。
リョウは袋に手を伸ばし、スライディングで奪い返す。
「ひいいい! 鍋の奴だ!」
以前やらかした鍋投げの名が、なぜか広がっていたらしい。
数分の攻防の末、なんとか子どもを救出することに成功した。
子どもの名前は“ナリス”。金を生み出すという魔法の一族の末裔で、失踪すれば王国規模の騒ぎになる子だった。
「ありがとう……ぼく、怖かったけど、君たちが来てくれて……」
ナリスは涙を拭いながらリョウに抱きついた。
「英雄様……!」
「いや、オレ盗賊なんだけど……っていうかクラウスどこ行った?」
その晩、ギルドに戻ると案の定、上層部に呼び出された。
「勝手な行動はギルドの掟に反する」
リョウは牢に放り込まれた。そう、オレだけ罰をつけることになった。
外は土砂降り。雷鳴が轟く夜だった。
深夜、ギルドの裏口が開いた。
「……来たか」
クラウスがロープを下ろし、モンブランがイノシシ型モンスターで柵を破壊する。
「クラウス………おまえ、いい根性してるな………」
「おいおい、こうやって助けに来たではないか」
「さすがに今回はバレたら終わりだぞ」
「だからって置いてけるか!」
仲間たちは躊躇いなくリョウを救出した。
その後、廃屋に逃げ込み、濡れた体を囲炉裏で乾かしていると、ミナ(モンブラン)が口を開いた。
「……あたし、本当は盗賊なんて、したくなかった」
全員が黙る。
モンブランはぽつりぽつりと、自分が孤児で、兄を救うために盗賊になったことを語った。
「でも、今日みたいに誰かを救えたら……盗んだ過去も、少しは許されるのかなって」
「……この辺が潮時か………4人で抜けよう」
エルネアが静かに言った。
「わたしたちのスキル、他の場所で活かせるはず」
リョウはその言葉に力強く頷いた。
――この日、彼らは決意する。泥にまみれた盗賊の道を捨て、改めて“人として”生き直す覚悟を。
凡人の青年と、残念だけど愛すべき仲間たち。
それが、後に“笑って泣けるチーム”と呼ばれる伝説の始まりだった。