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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第8章:パート2「錆びた石盤」

奥へと続く通路は、いままで以上に静まり返っていた。湿り気を帯びた空気がまとわりつき、三人の吐息さえ石壁に吸い込まれてしまうかのようだ。リョウは、ランタンを掲げながら進む足を止めた。


 「……待て。あれを見ろ」


 壁の一角、崩れ落ちた瓦礫の向こうに、なにか人工的な意匠が覗いている。近づくと、それは石造りの壁に埋め込まれた一枚の石盤だった。だが表面は、幾世代もの時を経たかのように錆び付いた赤茶色と黒緑の苔に覆われ、ただの岩と見分けがつかないほどだった。


 モンブランが眉をひそめる。

 「……ただの壁飾りじゃなさそうだね」


 リョウは手で苔を払おうとしたが、触れた瞬間、ざらりと嫌な感触が返ってきた。石盤は脆く、力任せに削れば文字どころか表面ごと崩れてしまいそうだ。


 「下手に触るな。エルネア、頼む!」


 呼びかけられたエルネアは一歩前に出た。彼女は冷静な眼差しで石盤を見つめ、慎重に刷毛で苔や汚れを取り払っていく。


 石盤を覆っていた苔がひらりと剥がれ落ちる。湿った苔の塊が地面に散り、そこに刻まれた文様と文字がゆっくりと姿を現した。


 「……やっぱり、文字が刻まれてるな」

 リョウが息を呑む。


 石盤に浮かび上がったのは、古代語と思しき連なりだった。線は摩耗して読みにくいが、ところどころはっきりと王冠や紋章を示す意匠も刻まれている。


 エルネアは膝をつき、指で文字をなぞるようにして集中した。


 「……フェリア……という単語が見えます。間違いなく、これは王家に関する記録だわ」


 モンブランが腕を組み、不快そうに眉をひそめた。

 「王家? こんな朽ち果てた遺跡に?」


 「ただの偶然じゃない」リョウが即座に言葉を返した。

 「この遺跡が“ただの廃墟じゃない”って、俺はずっと感じてた。やっぱり王家と関係があるんだ」


 エルネアはさらに解読が進める。額には薄く汗がにじみ、瞳は鋭さを増していた。


 「ここには……『血筋』『継承』という言葉が……それに『正統の証』……」


 彼女は一語ごとに小さく声を漏らしながら、文をつなげていく。


 リョウは無意識に息を潜めた。彼の耳には、古代の石が語る声が、エルネアを媒介にして響いているように感じられた。


 「どういう意味?」モンブランが問う。


 「断定はできないけれど……」エルネアは慎重に言葉を選んだ。

 「フェリア王家の“正統性”に関わる秘密が、この遺跡の奥に眠っている可能性があるわ。継承の証……あるいは、王家の血を継ぐ者に関わる何かが」


 リョウは背筋に冷たいものが走るのを覚えた。王家の正統性。それはこの国の存立そのものを揺るがす事柄だ。そんなものが、この地に埋もれているというのか。


 「……なにか面倒ごとの匂い………」モンブランがつぶやく。


 だがリョウは、苔の剥がれた石盤に目を凝らし続けていた。そこに刻まれた線や象徴は、ただの古代の飾りではない。歴史の裏に隠された意思が、この石盤を通じて語りかけているように思えてならなかった。


 「もしこの先に、王家の秘密があるなら……俺たちはもう、後には引けない」


 リョウの声は低く、しかし決意に満ちていた。


 エルネアは静かに頷く。

 「ええ。ここで見つけたことを、ただの偶然で済ませるわけにはいかないわ」


 三人は改めて石盤を見つめた。


 苔を払い、錆びを透かして現れた古代の言葉は、王家の血脈と継承の秘密を仄めかすだけで、その核心には触れられていない。だが逆にそれが、この先に待ち受ける真実の重さを際立たせていた。


 通路の奥は、さらに深い闇を抱えて口を開けている。そこへ進むことは、ただの探索者としてではなく、歴史の証人として足を踏み入れることを意味していた。


 リョウはランタンを持つ手に力を込めた。石盤の文字が、炎のゆらめきに合わせて揺れ動き、まるで彼らを奥へと導こうとしているかのようだった。

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