王都グランフェリア編 第6章:パート3「石像」
次の瞬間、轟音とともに石像の目が赤く光り、ゆっくりと頭をもたげる。
「……うわあああ! やっぱり動いたーっ!」
リョウの嫌な予感は的中。巨大な人型ゴーレムが、地響きを立てながら一歩、また一歩と迫ってくる。
リョウが短剣を抜き、モンブランが槍を構え、エルネアが聖印を掲げる。だが――。
「硬っ! 全然効かないんですけど!?」
リョウの斬撃は石の表面に小さな傷すら付けられず、モンブランの突きもただ弾かれるばかり。エルネアの死霊魔法でつくったアンデッドもゴーレムの前では紙切れ同然だった。
「どうするリョウ!? このままじゃ石像に踏み潰されちゃう!」
「火力不足ってこういうときに実感するんだよな……!」
焦る仲間たちを前に、リョウは大声で叫んだ。
「よし! こういう時は王道に! ――逃げろーっ!!」
三人はそろって背を向け、全速力で駆け出す。後方からは、ドシン、ドシンと地面を揺らす重い足音。
「遅くて助かったね!」
モンブランが息を弾ませながらも笑う。確かにゴーレムの動きは鈍重で、三人が逃げ切る余裕はあった。
だが安心する間もなく、彼らの前に現れたのは炎が轟々と噴き出す「火吹きの間」だった。壁の隙間から、交互に火柱が吹き出しては収まる。
「これは……昔の盗賊時代を思い出すね!」
リョウは目を輝かせ、自信満々に言った。
「タイミングを見れば簡単さ! みんな、オレについてこい!」
三人は呼吸を合わせ、リズムを刻むように炎の切れ間を狙う。
「今だっ!」
駆け抜けるリョウ。続くエルネアとモンブラン。
――が、現実は甘くない。
「ぎゃああああ! あっつ! 髪、焦げた!」
「わ、わたしのローブがああっ!」
「俺のマントォォ!」
三人とも、華麗な突破どころか髪や服を焦がしながらギリギリで通過する羽目に。
最後に飛び出したリョウは、床を転がりながら息をつく。
「……ぜぇ……ぜぇ……っ、いや、まあ、クリアはクリアだ……」
「全然楽々じゃなかったじゃん!」
「ごめん! 過信してた!」
苦情を浴びながらも、なんとか生き延びた三人は次の部屋にたどり着いた。
そこは不気味なほど静まり返った「チェス模様の床の間」。白と黒のマスが整然と敷き詰められている。
「これは……踏み間違えたらやばいやつだな」
リョウが眉をひそめると、エルネアが冷静に頷く。
「正しいルートを見抜かないといけないのね。論理パズルのような……」
試しにエルネアがアンデッドを召喚して一歩進ませる。何も起きない。さらに二歩目――床が崩れ、アンデッドは闇に吸い込まれて消えていった。
「やっぱり! 間違ったマスは奈落に直結してる!」
「えぇぇ……めんどくさいなぁ……」
リョウが頭を抱える。真剣にルートを考え始めるエルネアの横で、彼はぽつりとつぶやいた。
「……考えるの面倒だからさ、発想を変えよう」
そう言うと、モンブランが連れていた鳥型モンスターに指示を与える。
「こいつにロープを持たせて、あっちの像に結んでこさせるんだ。そしたらロープを伝って渡れるだろ?」
「なるほど!」
モンブランは目を輝かせる。エルネアは頬を引きつらせながらも、結局その方法に従うしかなかった。
鳥型モンスターは軽やかに空を舞い、対岸の石像に輪っかを作っておいたロープを取り付ける。三人は順番にロープを伝い、ゆっくりと向こう岸へ。
「おおお……渡れた……!」
モンブランが歓声を上げる。リョウも満足げに頷いた。
だが、エルネアは複雑な表情で口を尖らせる。
「わたし……せっかく頭を使ってルートを解こうと思ってたのに……」
「まあまあ、命が助かったんだからいいじゃないか」
「うう……でも……! 私の冴えわたる頭脳の見せ場が……!」
そんな小さな不満を抱えつつも、三人は遺跡の奥へ向かった。




