第2章:シーフフレンド!
盗賊ギルド南端支部の地下、そこは“仲間たちの溜まり場”として知られていた。
リョウが初めてその空間に足を踏み入れたのは、晩飯の準備を手伝わされた日のことだった。
「お、君が噂の“鍋投げ新人”か。ようこそ、我らが社交場へ」
妙に気取った言い回しで挨拶してきたのは、金髪をオールバックにした細身の青年だった。肩からは装飾過多なマント、腰にはサビた剣。
「俺はクラウス=フォン=リンドバーグ。元は貴族だったのだが、まあ、いろいろあってね……今はこうして庶民にまみれているのだよ」
「リョウです。庶民どころか盗賊なんだが………めちゃくちゃ貴族言葉も残ってますね」
「はっはっは、郷に入っては郷に従うつもりなのだが……つい品性が滲み出てしまって困る」
そう言いながらもクラウスはギルド内の人望が厚いらしく、町の屋台のおばちゃんや、教会の孤児たちからも慕われていた。ただし、戦闘となると、しょっちゅう剣を折ったり足を滑らせたりする。
「さすがクラウス先輩。斬撃の風で自分のマント飛ばすなんて、見事でした!」
「いや、それは褒めてないよな……?」
次に出会ったのは、聖職者のローブを着た美しい女性だった。銀髪に白い肌、微笑みは慈愛に満ちている。
「わたしはエルネア。聖堂で回復魔法を使い、施しをする者です。困ったことがあれば、どうぞ遠慮なく」
「マジ天使……」
初対面の時リョウはその清楚な立ち振る舞いに感動したものであった。
とある日の夜中にギルドの倉庫で妙な物音を聞いた。
こっそり覗いてみると、白衣を着たエルネアが、新鮮な死体を前に何やら呪文を唱えながらメスを握っていた。
「……心臓の鼓動は止まってから十五分。腐敗は始まっていない……。これは良質だわ」
「え、こわっ!!」
エルネアの裏の顔は死霊術師だったのだ。
「驚かせてしまってごめんなさい。でも、わたしは命を研究しているの。ちゃんと魂は弔っているわ」
「えーっと……バレたらどうするんです?」
「そっとその人を土に返すわ」
「………⁉」
さらにもう一人、リョウの前に現れたのは、小柄な少女だった。ぼさぼさの茶髪に、獣皮のベスト、腰にはたくさんの香草と調味料。
「……モンブラン。モンスターと話せるの」
「え、自己紹介それだけ?」
「……人見知り」
どうやら彼女はモンスターと意思疎通ができる希少なテイマーらしい。
ただ、戦闘は苦手で、いつもモンスターたちに助けられていた。
「……あのイノシシは、君に“毛が薄いな”って言ってた」
「えっ、めっちゃ失礼じゃん!」
ちなみに彼女の得意技は料理。モンスター素材を活用して、美味しい料理を作りまくる。
友達を調理………深くは考えないようにしよう………
「今日はスライムで作ったプリン」
「おお……美味っ! え、これスライム!?」
日々の任務は地味だが、時に命がけで、時に笑えるようなものだった。
町の市場でスリを追いかけてハシゴを倒したり、屋根から落ちて干してあったパンツを被ったり、隠密任務中にくしゃみしてバレたり。
思い出すことはミスばかりのような………
だが、そんな日常の中で、少しずつ“チーム”としての形が見え始めていた。
「失敗しても、逃げずに戻ってくる奴が、本物の仲間だ」
クラウスは高らかに笑いながら、そう言った。
「お前ら、いろいろアレだけど……なんか、悪くないな」
心のどこかで、リョウはそう思い始めていた。
凡人が異世界で盗賊になり、奇妙な仲間と出会う。
――オレの日常は、元の世界と違い、ワクワクしたものに変化していった。