王都グランフェリア編 第6章:パート2「ぬか喜び」
息を切らしながら石球から逃げ延びた一行は、どうにか広間に転がり込んだ。
そこで彼らを待っていたのは――まるで王宮の謁見の間を思わせる、豪華絢爛な装飾をほどこされた巨大な扉だった。
「……ご、豪華すぎる……」
リョウが目を丸くする。
扉の表面は黄金の板で覆われ、宝石や宝飾品のモチーフが浮き彫りのように施されている。扉は燭台の明かりを受け、きらきらと反射していた。
「財宝だぁぁぁぁぁあああ!」
モンブランが両腕を広げて雄叫びを上げた。
「やっと報われた……! 転がる石球に追いかけられて死ぬかと思ったけど、神様は見捨ててなかった!」
「これは……絶対に中に宝物庫がありますね!」
エルネアの瞳も、今や病的なまでに輝いている。彼女にとっては金銀財宝そのものよりも、封印された古代の知識や遺物のほうが本命なのだろう。だが扉の荘厳さが、嫌でも期待を膨らませる。
リョウも同意見だった。
(いや、さすがにここまでの演出で空っぽはないだろ……これはガチで“当たりルート”を引いたんじゃないか?)
三人のテンションは一気に爆上がりし、いざ扉を開けようと試みる。
最初は正攻法。押す。
当然のように、びくともしない。
次に引いてみる。
……無反応。
リョウ達が力を込めても扉はまったく動かない。
「ぐぬぬ……! 高威力な魔法でも使えればよかったんですが…⁉」
エルネアは顔を真っ赤にして杖を振り回すが、扉はまるで嘲笑うかのように沈黙を保っている。
「こ、これは……! もしかして……」
リョウが意味深な声をあげた。
「“選ばれし者にしか開かない”……そういうやつ?」なのか
「……」
「勇者だけが入れる部屋! 血筋に選ばれた者だけが通れる門! 物語の定番展開だろ!」
場の空気が一瞬静まり返る。
期待していた分だけ、その言葉は胸に突き刺さった。
「……それってつまり、私たちじゃ無理ってこと?」
エルネアがぽつりと呟く。
ドッと力が抜けた三人は、その場にへたり込んでしまった。
だが諦めの悪いモンブランは、立ち上がると腰の袋から一匹の小型モンスターを取り出した。
丸いハリネズミのようなモンスターで、愛嬌ある顔つきだが、牙だけはやたら鋭い。
「“ガジ丸”、ちょっとお願い!」
「きゅぅ?」
モンブランは小動物を扉に近づけると、「ガジガジ」と音を立てて噛ませ始めた。
「おい! お前、なにやってんだ!」
リョウが即座にツッコミを入れる。
「いやいやいや! 確かに黄金だから削っただけでも高値で売れるだろうけど! これ文化財だから! 考古学的に価値あるから!」
「……売れるなら十分お宝じゃないの?」
「違う! 絶対違う! 盗掘犯の思考だぞそれ………元盗賊だけども!!!」
モンブランは悪びれもせず肩をすくめた。
彼女にとっては宝の部屋が開かないなら、せめて「扉の素材」だけでも持って帰ろうというお子ちゃまらしい純真な発想であった。
仕方なく三人は、黄金の扉を諦めて周囲を探索することにした。
扉のある広間はただの飾りではなく、左右の壁や奥には奇妙な装飾が施されている。
とくに目を引いたのは、壁際にずらりと並ぶ石像たち。
高さは人間と同じか少し大きい程度。鎧をまとった戦士や、槍を構える兵士の姿を模しており、ずらりと十体以上が整列していた。
「……うわぁ、嫌な予感しかしないな」
リョウは心の中で呻いた。
こういうのは大抵、「条件を満たすと動き出す」お約束だ。
口に出したら逆にフラグになる気がして、彼は黙っていた。
だが――
「おお、精巧な作りね!」
エルネアが、なにげなく石像に手を触れてしまった。
その瞬間。
ゴゴゴゴ……と地鳴りが響き、石像の目が赤く光った。
「――動いたァァァァァァァァ!」
リョウの叫び声とともに、石像たちは一斉に腕を持ち上げ、ゆっくりと前進を開始するのだった。




