王都グランフェリア編 第6章:パート1「石球の間」
遺跡探索の旅を続けていたリョウたちは、苔むした石段を降りた先で、唐突に人工的に削り出されたような長い通路へと踏み込む。そこは自然の洞窟とは違い、壁も天井も無骨に均され、異様なほどの人工感を放っていた。
壁にはいくつものひび割れや削れ跡が走り、天井は不自然に抉られている。さらに床には、何度も何か重いものが通ったかのような、丸い大きな溝が奥へ奥へと続いていた。
モンブランが不安げに眉をひそめ、短い足で溝を軽く蹴る。
「なあ……この溝、どう見ても丸い石とかが転がってった跡じゃねえか?」
エルネアも緊張を帯びた声でうなずく。
「天井の削れ具合からして……巨大な石球がここを転がったとしか思えませんね」
その時、リョウが真顔で言い放つ。
「……これ絶対、転がってくるやつじゃん」
三人とも妙に納得してしまうあたり、元盗賊としての経験と勘は同じ方向を向いていた。
そして次の瞬間、予感は現実となる。
――ゴゴゴゴゴ……!
地鳴りのような轟音が通路の奥から押し寄せ、闇の奥から巨大な石球が姿を現した。
「き、来たあああああああ!扉も開かない!走れっっっ!」
モンブランの悲鳴を皮切りに、三人は一斉に全力疾走を開始する。
石球は容赦なく加速し、地響きを立てて迫ってくる。
逃走の最中、床板が突然沈み、鋭い槍が突き出す落とし穴が口を開ける。エルネアが素早くリョウの腕を引き、モンブランは横っ飛びでかわした。次に横の壁から矢の罠が雨のように放たれる。
だが三人は、長年のチームワークを証明するかのように、呼吸の合った動きで回避していく。モンブランが飛び越えた瞬間にリョウが支え、エルネアはその隙を見て自前のアンデッドを召喚し、矢をくらわせながら進む。まるで即興の舞台劇、あるいはミュージカルのように息がぴったりと合っていた。
「ねぇリョウ! このままじゃ追いつかれる!」
「わかってる!」
通路の両端に、鉄製の灯台が立っているのをリョウは目にした。その瞬間、彼は腰に巻き付けていた黒光りする鞭を取り出す。
――アイアンサーペントの革で編まれた鞭だ。
鋼のような皮膚を持つ蛇から作られた、しなやかで頑丈な一振りだ。今回の遺跡探索のために密かに温存していた秘密兵器でもあった。
リョウは走りながら鞭を前方の灯台に巻き付けた。
「止まれええええっ!」
ギギギッ、と鞭が軋み、火花を散らしながら石球の勢いを削ぐ。石球はほんのわずかに減速し、その間に三人は最後の力を振り絞って駆け抜けた。
石球がなおも迫ってくる中、三人は開けた部屋に飛び込み、すぐさま重い鉄扉を閉める。
――ドゴォン!
直後、石球が扉に激突し、重々しい音が響き渡った。
荒い息をつきながら、リョウは思い返す。
「……せっかくのアイアンサーペント製だったのに……高かったんだぞ…」
肩を落とすリョウに、エルネアが苦笑して声をかける。
「命あっての物種、ですよ。失ったのは残念ですが……あなたが使ってくれたおかげで助かりました」
「……まあ、そうだけどさ」
モンブランがふらふらと部屋の奥へ歩み寄り、目を丸くする。
「ねぇ、リョウ! エルネア! 見て!」
そこにあったのは、部屋の中央に鎮座する、荘厳な黄金の扉だった。
複雑な紋章と古代文字が刻まれ、まるで「宝物庫の入口」とでも言わんばかりの威容を放っている。
三人は思わず顔を見合わせ、息を呑んだ。




