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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第5章:パート3「仮面の効果」

 クラウスは、子供から回収した黒い仮面を手に、重たい足取りで王都の裏通りを歩いていた。目的地は、三上リョウが普段働いている魔道具屋――もっとも、本人はいま遺跡探索に出ていて留守のはずだ。だがこの店の店主は気難しい一方で、腕前は王都でも一、二を争う老魔道具師である。

 仮面の正体を突き止めるには、ここしかない。


 「……リョウは不在か」

 木の扉を押し開けると、カラン、と軽い鈴の音が響いた。店内は薄暗く、天井まで積まれた棚には水晶球やら歪んだ杖やら、用途不明の魔道具が雑然と置かれている。そんな中、奥の机に座った白髭の店主が、虫眼鏡を片手に細工をしていた。


 「ほう、クラウスじゃないか。珍しいな。リョウなら留守だぞ」

 「承知している。今日は彼に用ではなく……これを見てもらいたい」


 クラウスは、布に包んでいた仮面を取り出し、机の上に置いた。黒く紋様な描かかれた仮面で、見るからに不気味な代物だ。


 店主は眉をひそめ、慎重に手に取る。

 「ふむ……ただの装飾品には見えん。おまえさん、どこで拾った?」

 「誘拐された子供の友人から回収した。子供たちの間で“集めごっこ”のように流行っていたらしい」


 その言葉に、店主の目が細くなる。

 「なるほどな……危うい匂いがする。ちょっと待て」


 机の引き出しから水晶板を取り出すと、仮面をその上に置いた。淡い光が広がり、仮面の縁をなぞるように魔力の模様が浮かび上がる。店主は低く唸った。


 「やはり……精神系の付与がされている。具体的には“心を緩める”魔道効果だな」

 「精神を……緩める?」

 「簡単に言えば、抵抗心を削ぐ。眠気に似た感覚を与え、外部からの命令に逆らえなくする。強制ではないが、抵抗力が薄れてしまうんだ」


 クラウスの背筋に冷たいものが走る。

 「子供が言っていた。“仮面をつけると眠くなる”“大人に言われると逆らえない気がする”と……」


 店主は苦々しげにうなずく。

 「その通りだろうな。力づくで連れ去る必要はない。仮面をつけた子供は自分の足で歩き、誘拐犯の思うままに特定の場所へ向かうだろう。しかも本人の記憶は曖昧になる。実に悪質だ」


 クラウスは拳を固く握りしめた。

 ――これは単なる人攫いではない。意志を奪う“洗脳”による誘拐だ。


 「放っておけば、王都の子供たちが次々と操られて消えていく。しかも、配布経路には“慈善活動”の名を借りた貴族や商会が絡んでいた……裏で糸を引いているのは、レンドル商会だ」


 怒りを抑えきれず、机を叩きそうになるクラウスを、店主は手で制した。

 「落ち着け。憤るのは当然だが、頭は冷やせ。敵は大商会だ。正面から挑めば返り討ちに遭う」

 「ふぅ…………すまない!」

 「わかっておるさ。そのためにこそ調べてやったのだ。リョウが不在の間は、おまえさんが動くしかあるまい」


 クラウスはそっと微笑み、深く息を吐いた。店主は仮面を再び布に包み、彼に手渡す。


 「リョウにも困ったものだ。遺跡に潜るとかいっておったが。祭りの準備は夜中に起きて一通り済ませたようだから文句も言えん。どうせまた仕事をサボって冒険気取りなんだろうが?」

 「……そうだな」

 「代わりに、事件を解決してこい。リョウの分を埋めるくらいの働きをしてみせろ。そしたら、あいつのサボりも大目に見てやる」


 皮肉めいた笑みに、クラウスは苦笑した。

 この老魔術師なりの激励なのだろう。


 「借りは必ず返す。……必ず、この事件の黒幕を暴いてみせる」


 仮面を抱えて店を出たクラウスは、深い決意を胸に刻んだ。夜の王都は静かに広がり、闇の中で仮面の輪郭が不気味に光った。

 その光は、これから彼が挑む“闇で蠢く悪意”との戦いを告げる狼煙のようだった。

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