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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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王都グランフェリア編 第5章:パート2「裏ルート」

クラウスは、足早に石畳を歩き、王都中央区の一角にそびえる「商人ギルド」の重厚な建物へと向かっていた。誘拐事件の影に仮面が関わっていると掴んだ以上、その流通経路を洗い出すことは急務だった。


 ギルドの扉を押し開けると、帳簿の匂いとインクの染みた空気が漂ってくる。受付に座る事務員が慇懃に頭を下げ、クラウスの胸元に吊るされた貴族の徽章を一瞥してわずかに背筋を伸ばした。


「仮面の流通について、記録を確認したい」

「仮面……でございますか?」


 事務員は怪訝そうに眉を動かしたが、クラウスの眼差しの厳しさに気圧されたのか、慌てて奥の記録室へ案内する。棚に並ぶ膨大な取引帳簿をめくりながら、クラウスは黒い仮面の仕入れや販売の痕跡を探した。


 しかし――。


「……やはり、見つからないと…」


 何度確認しても、それらしい記録は一切存在しない。仮面の取引など、この正規の流通ルートでは行われていなかったのだ。つまり、街角にまで出回っている品は、裏の商会が独自に持ち込んでいる。クラウスは唇を固く結んだ。


「となれば、どこか別の供給源がある。表に出せぬ理由がな」


 彼はさらに情報を求めて、ギルドに出入りする商人たちに聞き込みを重ねていく。表向きは雑談を装いながらも、話題を巧みに誘導する。やがて、いくつかの共通点が浮かび上がった。


 ――仮面は、舞踏会の夜に「余興」として子供に配られていた。

 ――貴族のサロンに出入りする孤児たちに「お土産」として渡されていた。

 ――孤児院への寄付物資の中に、なぜか大量の仮面が紛れ込んでいた。


 一見すれば善意に満ちた慈善活動の一端。しかし実際には、子供たちの手に確実に仮面が渡るよう緻密に計算されていた。


「慈善の皮を被った毒か……」


 クラウスは心中で吐き捨てる。思い返せば、下町で出会った少年も「仮面をもらった」と言っていた。それは単なる遊び道具ではなく、催眠作用を孕んだ危険な魔道具。つまり、子供を操るために計画的に仕組まれた網だったのだ。


 怒りが、静かにクラウスの胸に満ちていく。


 さらに裏付けを取るため、彼は寄付物資の搬入記録を調べた。その帳簿には、曖昧な筆跡で同じ商会の名が繰り返し記されている。


「……やはりレンドル商会で間違いない」


 クラウスは低く呟いた。


 その名は、王都の商人の中でも特に指折りの商会として知られていた。だが同時に、裏社会との繋がりを囁かれる存在でもある。


 ただの利益追求ではなく、権力者と手を組んで不正を隠蔽することにも長けている――クラウスは、これまでの情報からそう推察する。だが今回ばかりは、噂ではなく明白な証拠に近い。


「やはり貴様らが裏で糸を引いているか」


 拳を握りしめると、分厚い革手袋越しに関節がきしんだ。子供たちの純真な遊び心を利用し、無抵抗のまま誘拐に繋げる――卑劣極まりない手口だ。


 しかし、ここで感情に任せて動くわけにはいかない。相手は王都の有力者と繋がる大商会。正面から告発すれば、証拠を握り潰される危険もある。クラウスは深く息を吸い込み、頭を冷やすようにゆっくりと吐き出した。


「……決定的な証拠を掴むまでは、迂闊に動けん。だがあと一歩だ」


 窓の外には、夜の帳が降り始めていた。街の灯りがぽつぽつとともり、通りを行き交う人々の影が長く伸びる。その穏やかな景色の裏で、どれほど多くの子供が闇に呑まれたのか。クラウスの胸に、重苦しい疑念が広がっていく。


 だが、その疑念は確かな決意へと変わった。

「待っていろ、必ず救い出す…!」

 クラウスは静かに商人ギルドを後にした。

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