表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
24/64

王都グランフェリア編 第5章:パート1「子供たちの証言」

クラウスは、王都の下町を歩いていた。

 昼下がりの通りは、干された洗濯物が風に揺れ、焼き立てのパンの匂いが漂う。だがその穏やかな風景の裏で、子供たちが忽然と姿を消すという事件が続いている。目撃者による証言が少なく、衛兵たちもどこか及び腰だった。


 クラウスは、誘拐された貴族の館や、街中の現場に足を運び、地道に調べ直すことにした。


 路地裏に佇む小さな酒場。その裏手にある狭い広場で、数人の子供が蹴鞠をして遊んでいた。クラウスは近くの住人に事情を話し、誘拐された子供の友達と会わせてもらった。

 彼の目の前に現れたのは、痩せぎすの少年。年の頃は十歳くらい。擦り切れたシャツを着ていたが、瞳にはまだ無邪気さが残っていた。


「おじさん、あの……本当に俺たちのこと、怒らない?」

 少年は落ち着きなく足元を蹴りながら尋ねてくる。

「怒らない。ただ、君の友達がどうしていなくなったのか、知りたいんだ」

 クラウスはキャンディを握らせ、できるだけ柔らかい声で答えた。


 少年は少しの間迷った末に、小さな声で打ち明けた。

「……あの子、黒い仮面をもらったんだ」


 クラウスは眉をひそめた。「仮面?」

「うん。なんか、変な人から……。でも、その人は“怖い”って感じじゃなくて、むしろ優しくて。『お祭りだからってみんなで遊びなって』って渡してきたんだ」


 少年は手振りを交えて説明する。

 その仮面は一見すると鉄製で、絵具で紋様が描かれているだけの普通の仮面だった。大人が舞踏会で付けるような装飾はなく、ただ目の部分だけ穴が開いている。まるで鉄の板を削り出したかのような、ごつごつした質感。子供が遊び道具にするには妙に不気味だった。


「でもさ、あれをつけると……なんか、落ち着くんだ」

 少年は自分の胸に手を当てる。「お腹の奥がふわふわして、怖いことなんかどうでもよくなる感じで……。だから、みんな欲しがったんだ。あの子も夢中で仮面をつけてて……それから、ある日、ふっと消えちゃった」


 クラウスは黙って話を聞きながら、胸の奥に冷たいものが走るのを感じていた。

 ただの玩具ではない。催眠か、精神を鈍らせる魔道具か。どちらにせよ、子供が好んで身に着けるように仕組まれた意図が透けて見える。


「その仮面は今、君が持っているか?」

 クラウスが問うと、少年は首を振った。

「取られちゃったんだ。別の子が欲しがって……取り合いになって、その子の兄ちゃんに見つかってさ。『こんな気味悪いもん捨てちまえ!』って、井戸に投げ込まれたんだ」


 なるほど、とクラウスは顎に手をやった。

 仮面を広める役割を果たしていたのは、こうした子供たちの無邪気な「集めごっこ」だ。珍しい玩具を持ち寄って遊ぶ。そこに仕掛けられた魔道具を紛れ込ませれば、自然と流行のように広まっていく。


「それを渡してきた“大人”って、どんな格好をしていた?」

 さらに尋ねると、少年はしばらく考え込んでから言った。

「うーん……黒いマントに、顔も仮面でお祭りの仮装だって言ってた。だから、よく分かんないや。でも、声は優しかった」


 黒い仮面の大人が、子供に黒い仮面を渡す。

 その構図に、クラウスはぞっとするものを覚えた。明らかに偶然ではない。


 聞き取りを終えると、少年は安堵したように遊び仲間のもとへ駆けていった。残されたクラウスは、路地に立ち尽くす。

 夕日が煉瓦の壁を赤く染め、細長い影が地面に落ちる。その中で、彼は静かに呟いた。


「……これは“遊び”じゃない」


 胸の奥に鈍い怒りが芽生える。

 子供の心を弄び、意志を奪うような仕掛け。そんなものを広める者たちが、背後にいる。仮面を通じて子供を誘い出し、連れ去る……。

 クラウスの直感が告げていた。これは単なる誘拐ではない。もっと組織的で、もっと邪悪な計画の一端にすぎないのだ。


 彼は踵を返し、次の手がかりを求めて歩き出した。

 まだ仮面を持つ子供が、王都のどこかにいるかもしれない。

 ――一刻も早く真相を掴まなければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ