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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第2部:王都の遺跡編
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第4章:パート1「クラウスの追跡」

王都の夜は華やかさと陰鬱さが同居している。昼間はきらびやかな貴族たちの馬車や商人の掛け声で賑わう大通りも、日が落ちれば一転して、灯りの届かぬ裏路地に不穏な影を落とす。

 その裏路地を歩いていたのは、クラウスだった。闇に溶け込むような地味なマントを羽織り、腰の剣は目立たぬよう布で覆っている。表向きは散歩に見せかけながら、耳は周囲の小さな物音を聞き逃さず、目はどんなわずかな異変も捉えようと光を宿していた。


 彼が追っているのは「子供の行方不明事件」。近頃、王都の下町や郊外の集落で、幼い子供が忽然と姿を消すという噂が急増していた。最近では没落貴族の娘などにも及んでいるらしい。国は表立って動いてはいない。親たち複雑そうな表情で口をつぐみ、あまり情報を聞き出せなかった。だが兄姉の怯えた目は、確かに現実の事件を示していた。

 クラウスはこの事件の危険性を感じつつも、被害者の声を聞き、事件の解決に向けてより一層熱をあげていた。


 昼間は貴族の夜会に顔を出し、さりげなく会話の端々から情報を拾った。「最近、下町が物騒だそうね」「子供を閉じ込めて遊ぶ狂人の噂を聞いたわ」――どれも根拠は曖昧だが、断片を集めれば一つの像が浮かぶ。

 また別の日は商人街を歩き、荷車を押す男たちや店主たちに酒を振る舞いながら耳を傾けた。「馬車を見た」「夜な夜なフード姿の連中が路地をうろついていた」――ばらばらの証言が重なり合い、黒い糸で織られるように真実へ近づいていく。


 そうして迎えた今夜。調査を終えて宿へ戻る途中、クラウスは足を止めた。裏通りの先で、ひそひそとした声がしたのだ。

「早くしろ……見つかるなよ」

「この子供、効きが弱い……口も塞げ!」

 胸を突くような嫌な気配。クラウスはとっさに影へと身を潜め、目を凝らした。


 街灯の薄明かりの下、黒塗りの馬車が止まっていた。その脇で、フードを深くかぶった男たちが幼い子供を抱え込み、乱暴に車内へ押し込んでいる。子供の 悲鳴が夜気にかき消される。

 クラウスの心臓が高鳴った。噂は真実だった。ついに誘拐現場そのものに出くわしたのだ。


 彼は咄嗟に飛び出そうとした。しかし次の瞬間、視線の端に剣を帯びた護衛の姿が映る。馬車を守るように四方に立ち、鋭い目で辺りを警戒している。

 ――この人数を相手にすれば、子供を救うどころか自分が討たれる。クラウスは冷静さを取り戻した。深追いは危険だ。今は証拠を掴むべきと考えたためだ。


 クラウスは建物の影に身を伏せ、馬車を凝視した。すると、車体の側面に描かれた紋章が目に入る。月桂冠と商人秤を組み合わせた意匠――それは王都でも屈指の有力商会「レンドル商会」のものだった。

 彼は息を呑む。庶民の子供を狙う不逞者が、王都最大級の商会と結びついている? 単なる人さらいではない。背後に大きな利権、もしくは陰謀が潜んでいるとしか考えられなかった。


 その間にも馬車は出発の準備を整え、蹄の音を響かせて夜道を走り去ろうとしていた。クラウスは一瞬、剣を抜いて飛び出すか逡巡した。だが相手は組織だ。ここで無謀に挑めば、自分の死で終わるだけ。子供を救う機会を永遠に失ってしまう。

 歯噛みしながらも彼は影に留まり、馬車が遠ざかるのを見送った。


 夜風が冷たく頬を打つ。拳を握りしめるクラウスの胸中には、怒りと無力感と、そして燃え盛る決意が渦巻いていた。

「……必ず突き止めてやる。これはただの誘拐ではない。王都の闇、その中心に“何か”がある」

 彼は誰に聞かせるでもなく呟いた。月明かりが鋭く剣を照らし、その影は長く路地に伸びた。クラウスは夜風に血が凍るような冷たさを感じた。

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