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第1章:盗賊になった凡人

盗賊ギルドに拾われたオレ――三上リョウは、意外にもすぐに新しい環境に馴染んでしまった。


 「おい新人、炊き出し手伝ってこい!」

 「へいへい、今いきますよっと……って、なんで米が石並みに硬いんだよ!」


 リョウの仕事は、盗賊ギルドの中では完全に"下っ端"だった。倉庫の整理、荷物の運搬、食事の準備、夜間の見張り。当初は文句も言いたくなったが、地球での過酷な労働に比べれば、理不尽さはまだマシだった。


 「お前、メシの味は悪くないが、味噌ってなんだ? この赤いペーストは……血か?」

 「やめろ! 食う気失せるから!」


 そんなやり取りを繰り返すうちに、ギルド内でも妙な方向でリョウの評価は上がっていった。


 そして何より、リョウには“使える知識”があった。


 ある日、隠された物資を見つけ出すという任務を受けたときのことだった。


 「地図も何もないのに、どうやって隠し部屋探すんだよ……」

 仲間の盗賊が舌打ちをした。


 リョウはふと思い出す。深夜ドキュメンタリーで見た、戦時中の隠し部屋発見法。壁の厚さの違いや、空気の流れ、床板の軋み……。


 コンコン。

 「あ、ここだけ音が違う」


 なんと隠し通路を発見してしまった。


 「お、おまえ……でかした」


 その後もリョウは、 ・鍵を開けるために、鉄釘を利用した即席ピッキングツールを作ったり、 ・仲間と連携するために、独自のハンドサインを導入したり、 ・モールス信号を使って警戒情報を送ったり、


 器用貧乏なスキルを次々と発揮。


 「やるじゃねえか」  「お前、本当に素人か?」


 「ドキュメンタリー好きのただの社畜です……」


「ドキュメンタリー………?」


 この異世界においては、珍しくもなんともない土魔法や火魔法よりも、こうした現代的知識が逆に新鮮で役に立った。


 盗賊ギルドは階層制で、末端から幹部まで含めて百人以上いる組織。リョウが配属されたのは"南端地区担当"の支部で、南の国境近くに存在していた。ここは他国との交易ルートが交差する交通の要衝であり、物資の流入が多く、盗賊の活動も盛んだった。


 リョウは日々、各方面の雑用をこなしながらも、ギルドの構成と地理的背景について学び始めた。


 この国――正式名称を「バルタリア王国」と言う――は、大陸南端に位置し、俺がいるのが最南端の町ゴタール。魔導と騎士の文化が強く根付いている。鉄器はあるが銃は存在せず、ガラスは貴族の贅沢品。家屋は基本的に木と石造りで、断熱材などはなく、冬はとても寒い。


 家々には"一子相伝"の魔法が伝わっており、それぞれの家系が独自の魔術を秘蔵している。魔法の一般教育はなく、庶民は魔法を扱えない者がほとんど。


 


 ある晩、盗賊団はとある貴族の屋敷に夜襲をかける計画を立てた。


 「リョウ、お前は裏口から潜入だ。見張りは少ないが、犬がいるぞ」

 「犬!? 僕、柴犬サイズでも怖いんですが……」


 しかし、リョウは非常用の燻製肉を用意し、犬の気をそらすことに成功。


 「よーしよし、いい子だ……ああっ! なでてたら舐められた、バレる!」


 ドタバタしながらも彼は裏口から忍び込み、魔導書が隠された書庫にたどり着く。


 「ここか……でも鍵が……いや、あの針金が使える!」


 即席ピッキングで鍵を開け、書庫に侵入。だが、突如背後に気配を感じ、反射的に土鍋を投げた。


 「痛ってえ!? 何しやがんだ、おれだよ!」

 「仲間かよ!? ……生きててよかった……」


 割とスリリングな潜入作戦は、なんとか成功を収めた。


 この文化の中で、盗賊ギルドは"闇のネットワーク"として機能していた。各地の貴族や豪商と裏で繋がり、非合法の物流を担うと同時に、時には情報屋や暗殺者としても活動していた。


 リョウは、そんな巨大な組織に自分が溶け込んでいく自分に驚きと呆れを感じ始めていた。


 「……俺、こんな世界で普通に生活してる……?」


 だが、確かに彼は生きていた。食べて、笑って、仲間と働いていた。


 「おい、リョウ。あの宿屋の裏路地に例の隠し箱があるらしい。こっそり探ってこい」


 「了解です……って、また俺かよ」


 雨の降る夜、泥だらけの路地に潜り込み、木箱を発見。


 「よっと……って、罠!? うおっ、矢が飛んできた!」


 ギリギリで避けると、箱の中には情報の詰まった書簡が残されていた。


 「まるでスパイ映画じゃねぇか……いや俺、普通のサラリーマンだったのになんでこんな展開に」


 リョウは自嘲しつつも、自分の立ち位置が確立されていくことにどこか充実感を覚えていた。


 凡人が盗賊になり、奇妙な日常を築いていく。だがその裏では、かつて助けた馬車の“事件”が、静かに影を落とし始めていた。

挿絵(By みてみん)

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