王都グランフェリア編 第3章:パート2「森の中の探索」
森の入口に足を踏み入れた瞬間、すでに冒険は始まっていた。
いや、正確には「始まってしまった」という方が近いだろう。リョウたちが茂みをかき分け、最初の木漏れ日をくぐった瞬間――。
「おわっ! リーズリットぉぉぉ!」
リョウの絶叫が森じゅうに響き渡った。
木の枝から、つぶらな瞳をしたリス型の魔獣が数匹、牙をむき出しに飛びかかってきたのだ。普通のリスなら可愛いのだが、そこはモンスター。サルくらいの大きさで目は真っ赤に血走り、尻尾は毒針のように硬化している。
「落ち着きなさい! ただの森の雑魚モンスターです!」
エルネアが杖をかまえながら叫ぶが、先頭にいたこともあり、不意のモンスターにパニックになるリョウ。
「ううう……普通のリスはかわいいのに、赤い目に毒針って冷静に考えて怖すぎるんだよっ!」
エルネアはため息をつき、杖を軽く振った。
「光よ――聖なる加護の一閃!」
柔らかな光の刃が生まれ、襲いかかるリーズリットをひるませる。だが、彼女はすぐに舌打ちした。
「はぁ……聖女の奇跡を小動物に使うなんて、なんて安売り。ほらっリョウ、さっさと片付けなさい!」
「うるせえ!わかったよ!」
結局リョウが短剣で追い払い、リス魔獣は森の奥へ逃げていった。リョウはその場にへたり込み、涙目で胸を押さえている。
「心臓が止まるかと思ったぁ……。あんなの、動物番組で見たリスと違いすぎるぞぉぉ……」
「あんなに可愛いのに…」とモンブランは肩をすくめた。「可愛い顔して、実は肉食とか……よくある話だろ」
「リーズリットは雑食だよ!」
「余計怖いわ!!!」
その後もドタバタは続いた。
モンブランは木の根に足を取られて派手に転び、顔から苔のじゅうたんに突っ込んだり。リョウはリーダー気取りで地図を広げたものの――。
「……あれ? この川って地図に載ってなくね?」
「逆よ」エルネアが冷ややかに突っ込む。「あなたが上下逆さまに見てるの」
「な、なんだと……!?」
地図をぐるぐる回すリョウに、モンブランは笑いをこらえきれず「リーダー、完全に方向音痴だね」と指を差した。
「うるせぇ! 冒険者は度胸と勘だ!」
「それ、遭難する人のセリフだよぉ……」
森の奥は昼間でも薄暗く、鳥型モンスターの群れが木々の上からけたたましく鳴いて威嚇してくる。リョウが石を投げて追い払い、モンブランが必死に羽根を避け、エルネアは「森の守護が荒れているわね」と真顔で呟く。
そんな小騒動を繰り返しながら進んだ先で、ふと風景が変わった。
大木の間に、緑に覆われた石の階段が口を開けていたのだ。
「おおお……!」
三人は思わず息をのんだ。
階段は厚い苔に覆われ、段差の形がかろうじて残っている。長い年月で崩れた部分も多いが、それでも人の手で築かれたことは明らかだった。
リョウは鼻をひくつかせて、剣を肩に担ぐ。
「これは……ただの廃墟じゃないな。いよいよお宝の匂いがぷんぷんするぜ!」
「そういう匂いは嗅覚じゃなくて妄想でしょ……」エルネアが呆れる。
モンブランはおずおずと石段を触った。ひんやりと冷たく、苔が指先にまとわりつく。
「うわぁ……すごい。まるで森に飲み込まれたみたいだよ」
リョウは振り返り、仲間たちを見た。
「よし、決まりだ! ここから先が本番だ!」
エルネアはため息をつきつつも、その目にはわずかな興奮が宿っていた。
「……まあ、聖女としては放っておけない場所ね。神殿の加護かもしれないもの」
「おまえ…死霊使いが天職だろ!!!」
モンブランも恐る恐る頷く。
「こ、怖いですけど……でも、ちょっとワクワクするねぇ」
三人は顔を見合わせ、そして小さく笑った。
不安と期待が入り混じったまま、彼らは苔むす階段を登り始める――。