王都グランフェリア編 第2章:パート2「遺跡探索で一儲け?」
クラウスのぼろ宿をあとにしたリョウと仲間たちは、王都の大通りに戻ってきていた。昼下がりの市場は祭りを前にして熱気にあふれており、屋台の準備や出店の看板がそこかしこで打ち付けられている。
「なあリョウ、聞いたか? 地下遺跡だってよ!」
真っ先に目を輝かせたのは、やはりモンブランだった。背負った荷籠の中で、さっき市場で買ったばかりの香辛料ががさがさと音を立てる。料理屋台をやる気満々だった彼女は、食材よりも遺跡の噂に釘付けだ。
「子供探しのおまけだ、お・ま・け!」
リョウは苦笑する。だが内心、遺跡探索というワードの心躍っていた。
「そんなことわかってるよ!でもお宝が眠ってるかもしれないんでしょ? 冒険者気分になれていいじゃん!」
モンブランは両手を腰に当て、ずいと前に出る。その後ろから、エルネアが肩をすくめた。
「お宝なんて、掘り出したって大抵はガラクタですよ。歴史的価値? それはそれで面倒。王家や学者に取り上げられて一銭も入らないのがオチです」
「夢がないなあ……」
モンブランがふくれっ面になる。
先ほど子供の安否を心配していた彼女のことだ。場を和ませたいのかもしれない。
リョウはそう思いつつ、二人のやり取りを聞きながら、少し身を乗り出した。
「でもさ、噂だと今回の遺跡は結構ヤバい仕掛けがあるらしいぞ。探索者が何人も、帰ってこなかったって話も聞いた」
「えっ……」
モンブランが硬直する。その顔が見る見る青ざめるのを見て、エルネアは小悪魔的な笑みを浮かべた。
「ほら、またドジ踏むに決まってますよ。モンスター相手にすら四苦八苦してるのに、罠だらけの遺跡なんて無理です」
「そ、そんなことないもん! 料理だって、解体も保存も工夫してきたんだから! 罠だってレシピみたいに攻略すればいいんだよ!」
モンブランは涙目で反論するが、例えが斜め上すぎて説得力が皆無だった。
「まあまあ」
リョウは手をひらひらさせて仲裁に入る。
「俺たち、もともと盗賊上がりだろ? こういうトラップ解除とか、隠し通路を探すとか……多少のノウハウはある」
「“多少”のノウハウで死んだらシャレになりませんけど」
エルネアがため息をつく。
リョウは少し考えてから、ぽんと手を打った。
「とりあえず俺は遺跡探索で決まり。クラウスは貴族の依頼の方。お前達も決めておけよ」
「ちょ、ちょっと待って! 急にいわれても!?」
遺跡探索に瞳を輝かせていたモンブランも、やはり子供たちの行方が気がかりな様子。」
「ひとまず今日中にな!事態は一刻を争うかもしれないし、お宝も他の奴らに取りつくされるかもしれない」
モンブランはしばらく口を噤んでいたが、やがてきらりと目を輝かせた。
「じゃあ、遺跡で出たお宝を売ったら、その金で私の屋台をでっかくできるかな!」
「結局そこか」
「夢があるじゃないですか」
エルネアは皮肉を込めて笑ったが、モンブランはまったく気にしていない。
リョウはそんな二人を見て、ふっと小さく笑った。
――とりあえず俺たちは俺たちでできることを。
そう腹をくくると、不思議と気持ちが軽くなった。
遠くで祭り囃子の太鼓が鳴り始め、王都はさらににぎやかさを増していく。
リョウの次なる舞台――王都外れの地下遺跡へ向かう決意が、こうして固まったのだった。