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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
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第6章 パート6:地下礼拝堂の夜


 夜の王都は、静かすぎるほど静かだった。


 フユコは教会地区の屋根の上で、息を殺していた。

 風向き、月の位置、足音の反響――すべてを頭の中で整理する。


 この場所は、昼と夜でまったく顔が違う。


 昼間は祈りと慈善の象徴。

 夜は、影が溜まる場所。


 教会裏の古い礼拝堂。

 今は使われていない、地下への階段がある建物。


 「……来た」


 馬車の音。

 控えめで、急がない速度。


 焦りがない。

 それが、何よりも異常だった。


 フユコは屋根の縁から、わずかに身を乗り出す。


 布で覆われた馬車。

 御者は一人だが、降りてきた人影は三つ。


 役割が分かれている。


 一人は周囲の警戒。

 一人は扉の操作。

 一人は、荷を扱う係。


 ――慣れてる。


 それも、かなり。


 地下へ続く扉が、音もなく開く。

 そこから、湿った空気が流れ出した。


 麻袋が運び出される。


 一つ、二つ、三つ。


 形が、はっきりしすぎている。


 「……人、だ」


 フユコは目を逸らさなかった。


 ここで目を逸らしたら、意味がない。


 袋は、丁寧に扱われている。

 投げるでもなく、引きずるでもない。


 まるで――壊れ物のように。


 地下礼拝堂の中は、淡い魔石灯で照らされていた。


 祈りの場だった名残。

 壁に刻まれた聖句。

 その下に並ぶ、棺。


 数が多すぎる。


 そして、すべてが“新しい”。


 「こっちは冷却が甘いな」


 男の声。


 「新鮮な個体だから問題ない」


 別の声が、淡々と返す。


 フユコの背中を、冷たいものが走った。


 ――新鮮。


 死体を指す言葉として、あまりにも自然に使われている。


 「そっちは?」


 「呪い反応あり。別枠だ」


 その言葉に、場の空気が一瞬だけ変わった。


 「じゃあ、番号振り直せ」


 「了解」


 殺した、とは言わない。

 奪った、とも言わない。


 選別。


 ただ、それだけ。


 「……ねえ」


 低い声が、別の男に向けられる。


 「最近、数が多くない?」


 「需要が増えてる」


 「研究か?」


 「それもある。だが――」


 言葉が途切れる。


 一瞬の沈黙。


 「……余計なことは聞くな」


 フユコは、唇を噛んだ。


 これは、単発の事件じゃない。


 流れがある。

 役割がある。

 継続している。


 棺は、ただの入れ物だ。


 中身は、次の場所へ行くための“通過点”。


 「時間だ。次、来るぞ」


 男たちは、手早く作業を進める。


 棺の蓋が閉められる音。

 だが、釘は打たれない。


 密閉。

 開封前提。


 「……っ」


 フユコは、喉の奥が締めつけられるのを感じた。


 ここには、罪悪感がない。


 恐怖も、ためらいもない。


 あるのは、作業効率だけ。


 ――組織だ。


 間違いなく。


 誰かが指示し、

 誰かが選び、

 誰かが運び、

 誰かが受け取る。


 そして、誰も“殺した”とは言わない。


 「終わったぞ」


 棺が一つ、地下の奥へと運ばれていく。


 フユコは、それ以上を見る必要はなかった。


 ここにいること自体が、危険だ。


 だが――


 これで、確信に変わった。


 彼らは、人を“材料”として扱っている。


 殺害ではなく、選別。

 犯罪ではなく、流通。


 それが、何よりも恐ろしかった。


 フユコは音を立てずに、その場を離れた。


 屋根の上に戻ったとき、足がわずかに震えているのに気づく。


 「……リョウに、言わなきゃ」


 言葉にすると、壊れてしまいそうだった。


 だが、伝えなければならない。


 これはもう、疑いじゃない。


 決定的な目撃だった。


 地下礼拝堂の夜は、何事もなかったかのように再び静まり返る。


 だがその地下で――

 人が、人でなくなる作業は、今も続いている。


 フユコは、暗闇の中で一度だけ振り返り、そう確信した。

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