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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
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第6章 パート5:再調査の開始


 再調査は、何事もなかったかのように始まった。


 それが、リョウたちの最初の取り決めだった。


 疑いを持っていることを悟らせない。

 焦りも、怒りも、違和感も――すべて胸の奥に沈める。


 「……疑って悪かった」


 リョウがそう口にしたのは、その翌日だった。


 エルネア研究室。

 午前中の柔らかな光が差し込み、薬品棚のガラスが穏やかに反射している。


 「私たちの思い込みでした。墓荒らしの件で、神経質になっていた」


 頭を下げる角度まで計算された謝罪だった。


 エルネアは一瞬だけ、言葉を失ったように見えたが、すぐに微笑を取り戻す。


 「……そう言ってもらえると助かるわ」


 その横で、ハービーが肩をすくめた。


 「気にしてませんよ。疑われるのは、研究者の宿命ですから」


 軽やかな声音。

 曇りのない笑顔。


 それが余計に、リョウの神経を逆撫でした。


 ――この男は、警戒していない。


 いや、正確には「警戒する必要がない」と思っている。


 それを確認できただけでも、謝罪の価値はあった。


 ***


 再調査は、役割分担から始まった。


 誰が、何を見るのか。

 誰が、何を知らない“ふり”をするのか。


 「俺は、数字を見る」


 リョウは即座に言った。


 「帳簿と研究記録。表に出てるものも、過去の廃棄記録も含めて、全部だ」


 彼の強みは、感情ではなく構造だった。

 数字の並び、記号の癖、記録の抜け。


 「人は嘘をつくけど、数字は嘘をつかない」


 そう言って、リョウは研究室の資料室に通い詰めることになる。


 「じゃあ、私は夜ね」


 フユコが軽く手を挙げた。


 「裏道、倉庫街、教会区画。人が“仕事を終えた後”に動く場所を見てくる」


 彼女の動きは影そのものだった。

 屋根の上、排水路の縁、馬車道の外れ。


 「尾行はしない」


 リョウが釘を刺す。


 「“見てるだけ”だ」


 「分かってる」


 フユコはにっと笑った。


 「疑ってないふり、でしょ?」


 最後に、クラウスが口を開いた。


 「俺は、昼間だ」


 騎士団員としての顔を、最大限に利用する。


 「葬儀屋、教会の雑役、記録係。雑談として聞ける範囲で聞く」


 「踏み込むなよ」


 「分かってる。俺は“何も知らない側”でいく」


 こうして、影の探偵団は動き出した。


 ***


 リョウの調査は、静かで地味だった。


 埃を被った記録棚。

 破棄予定だった古い帳面。

 誰も気に留めない、余白の数字。


 「……一致、してるな」


 研究記録の検体番号。

 搬入日時の形式。

 数字の区切り方。


 すべてが、あの帳簿と同じ癖を持っていた。


 だが――人名はない。


 どこにも、誰の名前も書かれていない。


 「まるで……物資だ」


 人間ではなく、部品。

 死体ではなく、資源。


 リョウは、背筋に冷たいものを感じながらも、顔には出さなかった。


 「ハービー、これ手伝ってもらえる?」


 「いいですよ」


 彼は、まったく疑われていない態度で応じる。


 ――完璧だ。


 疑われていないという自信が、全身から滲み出ている。


 ***


 一方、クラウスの聞き込みは、もっと曖昧で、もっと危うい。


 「最近、棺桶の出入り多いですね」


 「研究用だそうで」


 「へえ、珍しい」


 それだけの会話。


 だが、回数を重ねるうちに、微妙なズレが見えてくる。


 「棺桶は出たが、埋葬はしていない」

 「教会は関わっていないが、場所は貸した」

 「名前は聞いていない」


 誰も嘘はついていない。

 だが、全員が“核心”を避けている。


 「……線は、つながってる」


 クラウスは確信する。


 ただし、まだ“点”が足りない。


 ***


 夜。


 フユコは、屋根の影で息を殺していた。


 酒場を出る人影。

 倉庫へ向かう荷車。

 教会の裏口が、決まった時間にだけ開く。


 「……見てるだけ」


 自分に言い聞かせる。


 尾行はしない。

 近づかない。


 ただ、流れを見る。


 その中で、一つだけ、違和感があった。


 誰も急いでいない。


 隠れているはずの行為が、妙に落ち着いている。


 「……慣れてる」


 それは、即席の犯罪者の動きではなかった。


 ***


 三人は、数日おきに情報を持ち寄った。


 「決定打は、まだない」


 「でも、偶然じゃない」


 「誰かが“回してる”」


 結論は同じだった。


 そして、全員が同じことを理解していた。


 ――この捜査は、まだ“芝居”の中にある。


 表では、謝罪。

 裏では、監視。


 相手に警戒させないこと。

 それが、最大の武器だった。


 「……焦るな」


 リョウは、自分に言い聞かせる。


 証拠は、必ず“形”を持つ。


 それを掴むまで、影であり続ける。


 影の探偵団は、静かに網を張り続けていた。

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